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躍動する中部経済【中国日記vol.131】

 歴史的に一貫して日本経済の中心を担ってきた大阪。戦後の高度経済成長を経て、政治のみならず日本経済の頂点に躍り出た東京。その間にはさまれた名古屋は、あくまでも第三の都市でした。ところが自動車産業を中心とした経済成長で大阪を猛追です。それを支える中部地方の人々の迫力は、中国の人々を凌ぐ勢いです。中部国際空港から天津への直行便で往復した時のエピソードをお伝えしましょう。皆様に「元気」のおすそ分けです。

1.ジャージ男の登場

中部国際空港 ボーイング737の座席は通路をはさんで両側に3つずつ並んでいます。私の席は右側の真ん中。空港のチェックインカウンターでは窓側をお願いしたつもりでしたから客室乗務員にそれを告げますと、後ろの列の窓側の席に移動することができました。私の隣の二席は空いています。

 良いことは長続きしないものです。後ろが空いているとみて、出発直前に男性が私の隣の通路側の席に移ってきました。40代後半に見えるこの男、ジャージ姿です。

2.飲み続けるジャージ男

 男は日本語でワインを頼みました。日本人です。中国でもジャージで飛行機に乗る人は居ません。いつも利用する関西国際空港でも見たことがありません。中部国際空港だけの特別な現象に違いありません。

 私は、天津に着くなり仕事がありますので酒類は飲みません。素面(しらふ)で見ていると、男は私が食事を終える15分ほどの間に既に2本のワインを飲み干し、3本目を頼みました。そして更に2本。

 男は食事中、紙ナプキンを膝に拡げることもなく飲み続けます。すっかりくつろいでスニーカーを脱ぎ、シートベルトを緩めて脚を床に投げ出しています。客室乗務員に「着陸前にお茶くれる?」と言って目を閉じました。

3.泥酔するジャージ男

 私は、窓の外を眺めます。眼下は雲海。海というより粗い雪原が続いている感じです。雲の雪原はところどころ断層があり、新雪が降ったように滑らかなところもあります。雲の継ぎ目は緩やかな谷のようになっています。飛行機は翼を左に振り、右上空が見えました。雲と空の境の淡い青から、上空の深い青に景色が変わります。宇宙の暗黒がかいま見えるような、吸い込まれそうに深い青です。と、「グー」という音に現実に引き戻されました。男のいびきです。

4.目覚めるジャージ男

 一時間半後、着陸が近づいたので客室乗務員は男のテーブルにお茶を置きましたが、男は夢の中です。

 着陸態勢に入りました。乗務員はカップを下げてテーブルをたたまなければなりません。このままでは、男が目を覚ました後に「着陸前にお茶くれるって言っとるのに、なんで出してくれんの!」とゴネるのは目に見えています。はた目でドキドキしていると、ベテランらしい乗務員がうまい具合に男に声を掛けて目を覚まさせました。男は一息で茶を飲み干し、事なきを得ました。

5.通勤感覚のジャージ男

 着陸し、駐機場に停まりました。男の同僚が近づいて、棚から荷物を下ろします。これから会社の宿舎代わりのホテルに向かうようです。この男、若い頃からマイカーで工場通勤、毎朝ジャージで家を出て工場で作業服に着替える習慣が染みついているのでしょう。海外に行くのも男にとっては毎日の通勤と同じ感覚のようです。

6.究極の国際感覚

 国境を越える移動でも国内の日常と同じ服装、緊張感というものが微塵も感じられません。ここまで中部地方の国際感覚が進んでいるのです。私は、商社マン時代から現在に至る通算20年海外との往復をしていますが、海外出張にここまでの日常感覚を持ち込むことはできませんでした。複雑な思いで羨望に近いものを感じました。私には一生できそうもありませんが。

 帰りのフライトで中部国際空港に戻ってきました。空港から名古屋駅までの名鉄特急では空いている訳でもないのに、名古屋言葉の老夫婦が通路をはさんで隣同士に座って会話。各々窓側に荷物を置いて4つの座席を占拠しています。急激な発展は他人を押しのける迫力を伴うものです。まだまだ日本経済も中国に負けてはいません。中部地方の躍動感に、「ビミョー」な希望を垣間見たのでした。

この号終わり

写真:中部国際空港