第13話 技術のサイクル<前編>
【アラカン社長の徒然草vol.19】

 「富士重工業が中国の新興自動車メーカー、奇瑞汽車と中国・大連市に合弁工場を建設する方向で交渉していることが21日、分かった。来年3月までに決定し、2〜3年後の生産開始を目指す。」(2010年12月22日Fuji Sankei Business i)

 私は1983年から2年間、富士重工業三鷹製作所で自動車エンジンの生産システム開発に携わりました。そこで戦後日本の乗用車技術の源流と進歩、普及と熟成の流れを知りました。
 私は今、日本酒の業界に生きています。中谷酒造がある奈良には、都が置かれた8世紀に中国から最新の酒造りの技術が伝わりました。奈良ではその技術を継承し、中世にその技術を発展させて今に繋がる醸造技術を確立しました。その技術が日本各地に伝播して現在の日本酒になりました。そして私は今、中国天津で日本酒を醸造しています。
 私が関わった二種類の業界の歴史を、技術の誕生もしくは伝来、進歩、普及に至るサイクルに沿って、並列して概観してみるのも面白そうです。

1.中国で人気のスバル 

天津中谷酒造のSUBARU森林人 富士重工業が生産するクルマはSUBARU。中国では準高級車として人気が高まっています。輸入車には関税が掛かりますので高価です。現地生産を待ち望む声が挙がる一方、合弁交渉に時間がかかっています。富士重工業の前身は軍用機メーカーの中島飛行機。中国ではそれを根拠に中傷の声も。しかし、良い物は正当な評価を得られます。いよいよ中国でも生産が始まるとすれば、ファンには嬉しい身近な存在になります。
 人気の秘密はその独特の構造と高性能です。エンジンは世界的にも珍しい水平対向。僅か2000ccで過給機付きなら280馬力、308馬力といった高出力。航空機にならってエンジンブロックもミッションケースもアルミ製で軽量。直線に配置された動力伝達系は、左右対称の四輪駆動。ボディーは、高出力エンジンに耐える高剛性。ブレーキパイプは室内配管で損傷を防ぎ、おまけに左右クロス配管で一系統が壊れても真っ直ぐに停まることができます。そういった、こだわりの塊(かたまり)、それがスバルです。

2.技術開発と進歩

中谷酒造の江戸時代に建てられた米蔵 中島飛行機は国策会社でした。一流の人材が集められ、世界水準の高性能航空機を開発・製造していました。隼(はやぶさ)、疾風(はやて)など評価の高い戦闘機。それに三菱が製造し海軍航空戦力の主力となった零式戦闘機のエンジンも供給していました。
 敗戦後は平和産業への転換を求められました。やがて財閥解体で15社に分割されましたが、その内の六社が合併し、社名も平和を象徴する「富士」を冠して、自動車産業に参入しました。スバルのエンブレム「六連星(むつらぼし)」は六社の集まりを表現しています。
 乗用車は実用化されて以来、フレームと呼ばれる駆動装置が組み込まれた枠組みの上に、人が乗る車体が載るものでした。富士重工業はフレームと車体を一体化し、卵の殻のように全体で強度を持たせるモノコックボディーを日本車で最初に採用し、1958年にスバル360で商品化しました。航空機の機体製造技術が応用されたものです。現在は、世界中で作られるクルマのほとんどがこのモノコックボディーを採用しています。
 今や大衆車の常識とも言えるFF方式(フロントエンジン・フロントドライブ)車を日本で最初に実用化したのがスバル1000。1966年のことでした。翌年ホンダが追随します。
 スバル360ではFRP(繊維強化プラスチック)をボディーに採用するなどグラム単位での軽量化を行いました。現在のエコカーの先端に通じる技術発想でした。

3.スポーツカーへ

天津中谷酒造 かつてプリンスという自動車メーカーがありました。これは戦後、中島飛行機の一部の工場がタイヤメーカーのブリヂストンの資本の下に独立したもので、スカイラインという日本を代表するスポーツカーを生み出しました。その後、日産自動車に合併されましたが、日産のスポーツカーの大きな流れとして受け継がれました。現在、日産が誇るスポーツカー「GTR」の名称は、実にスカイラインを継承したことを表しています。
 ホンダは二輪車メーカーとして戦後にできた会社ですが、四輪車を作る技術にはやはり中島飛行機の技術者が寄与しました。とりわけ1965年のF1メキシコグランプリの優勝は中島飛行機出身のエンジン技術者・中村良夫によってもたらされたものとして世間に知られています。

4.技術の普及とそれから

 技術は共有され、熟成し、普遍化します。技術力の差が縮まり、差別化が困難になります。僅かな差を強調することが最大の販売戦略になり、イメージ作りやデザインが一層重要になります。
 スバルはWRCなどラリー界で活躍してきました。スバルは市販車であるにもかかわらず競技車に近い性能を持つことが特徴です。ホンダは、F1を始め、サーキットレースで好成績を上げて市販車のイメージを上げました。マツダはロータリーエンジンです。
 近年のエコカーブームはハイブリッドカーを生み出しました。先行するのはトヨタ。新しい技術土俵での競争です。技術サイクルの始まり、新時代の幕開けです。

第13話<前編>終わり

写真1:天津中谷酒造のSUBARU森林人
写真2:中谷酒造の江戸時代に建てられた米蔵
写真3:天津中谷酒造

2011年2月
  中谷酒造(株)代表取締役  中谷正人