第63話 三十年ぶりの寒波 【アラカン社長の徒然草vol.77】

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 昨年11月、季節外れの雪のため、北京空港で一日足止めを喰らいました(第61話 季節外れの雪)。年が明けて1月は上海出張。21日から三十年ぶりの寒波で気温は氷点下。この冬二度目の試練が待ち受けていました。

1.1月22日夕刻

 予報より気温が高く、雪にはならず氷雨が断続的に降り続いています。19時前、天山路(てんざんろ)の取引先料理店を訪問。数年ぶりにオーナー社長にお会いできました。情報交換のあと、新商品を紹介。既にお客さんが入り始めていますので、迷惑にならないよう十分ほどで辞しました。
 残るは、この出張最後の訪問先。金曜の夕方。おまけに雨と来ていますので道路は大渋滞中。地下鉄で行くことにして、最寄りの2号線の駅で営業車を降りました。
 市の中心に向かう車両はすいており、4駅目の南京西路(なんきんせいろ)駅で下車。雨の中、とぼとぼと茂名路(もめいろ)を1キロほど南に下って目的の料理店に到着。二十年来の付き合いがある板長(いたちょう)とカウンター越しにしゃべりながら一杯やります。営業活動はここで終わりですし、明日は帰国ですので心置きなくくつろいで飲めるというものです。

2.天気予報

 「そら、地下鉄ですわ。バスなんか、雪道で事故でも起こされたら全然動きませんやろ。」私が翌日帰国すると言うと、すかさず板長がアドバイス。「今夜から雪の予報でっせ。早う帰った方がいいですよ。」とも。慌てて時計を見ると、22時過ぎ。店に入ってからいつの間にか二時間が経っていました。
 カウンターの常連客も「今日はタクシーがつかまりませんよ。地下鉄も終電が10時半頃です。」と教えて下さいました。外は雨が雪に変わっています。その方は歩いて帰れるとのこと。私のホテルは歩ける距離ではありませんし、地下鉄の終電に間に合いそうもありません。私は凍りつきました。
 袖ふれあうも何かの縁。その方はスマホアプリでタクシーを呼んで下さいました。「気長に待てば来るでしょう。ゆっくり飲みましょう。」とのこと。
 10分後、連絡が来ました。慌てて勘定を済ませ、外に出ましたが、店の前を通り過ぎたとかでキャンセルされてしまいました。
 店に戻って飲み直しです。板長はもう帰ってしまいました。20分も経ったでしょうか、「今夜は酔いつぶれるまで飲んでこの店でゴロ寝かなあ」と思い始めたところ、二台目から連絡がありました。私の隣で一緒に飲んでいる同年配の出張者も近場ですが同じ方向とのことで相乗り。その方を途中で降ろし、無事ホテルに戻ることができました。

3.23日朝

路面の僅かな雪 早めにホテルを出て、地下鉄で浦東(ほとう)空港に向かう段取りです。6時半から朝食。荷物をまとめてチェックアウトを済ませました。玄関を出ようとすると、目の前に7時半発の虹橋(ホンチャオ)空港行無料バスが待っているではありませんか。
 浦東空港行のバスは、虹橋空港第二ターミナルから出発します。予定通り地下鉄で行くべきか、このバスで虹橋空港に向かうべきか悩みどころです。地下鉄なら最寄り駅まで寒空を1キロ歩く必要があります。乗り換えも面倒です。乗車時間も空港バスが1時間に対し、地下鉄は1時間半。空は曇り。水溜まりは凍っておらず、気温は氷点を上回っています。バスに決めました。
 15分ほどで虹橋空港第二ターミナルに到着。バスは3階に着きますので、地上階まで下りエスカレータ。一階の中央部が空港バス乗り場です。待つこと20分。8時10分発の浦東空港行に乗ることができました。
 ビルからバスが出ると、雪です。既にうっすらと白く積もっています。空港バスを待っていた僅か20分の間に天候が急転していたのです。

4.渋滞

 後悔先に立たず。「転ばぬ先の杖」の地下鉄を蹴ったのは私です。腹をくくるしかないのですが、雪の勢いが止まらず、気掛かりで窓の外を眺め続けます。事故に備えて、いつもなら締めないシートベルトも着用しました。鹿児島県と同緯度の上海に雪道に慣れたドライバーが存在するはずもなく、雪道の運転経験さえ期待できません。中国では当たり前のラフな運転は、僅かな雪で簡単にスピンを引き起こします。
 走ること30分。目の前のクルマの密度が一気に上がり、減速しました。昨夕の板長の言葉が脳裏に浮かびました。その予想を裏切ることなく事故渋滞です。
 バスの運転手は若く、乗用車に割り込ませることなくグイグイと頭を突っ込んで行きます。意外に早く事故現場が近づいてきました。乗用車が中央寄りに止まっており、その隣にフロントガラスが割れ落ちた2トントラックがこちらを向いています。おそらくトラックがスピンして、そこに乗用車が突っ込んだのでしょう。四車線の内、二車線が空いていますので5分ほどでクリアできました。

5.第二の事故

第二の事故:手前の2トントラックと追突車 更に十分ほど走った頃、空が明るくなり雪が止みました。ちょっと安心していると前方に渋滞が見え、その後尾で止まりました。今度は長い渋滞のようです。動きません。
 完全に止まっているかと思いきや、極めてゆっくりとですが前に進みます。15分は経ったでしょうか、現場が見えてきました。6台の多重事故。おそらく最初に乗用車が無理な車線変更。ハンドルを切った状態でブレーキを踏んでスピン。大型トラックが急ブレーキ。テールが流れ、二車線を塞ぎます。後続の2トントラックが急ブレーキでスピン。避けようとした2台が道路壁に突っ込み、避けきれなかった1台が衝突。という流れのようです。空いているのは一車線のみ。運転手の技量と向こうっ気の強さのお陰で、他車に負けることなく通り抜けることができました。
第二の事故:先頭のスピン車両と大型トラック 弱々しいながらも陽光が射し始めました。20分ほどの遅れで浦東空港に到着。搭乗予定時刻まで二時間以上あります。微妙な達成感。タバコに火をつけたものの、旨くありません。

6.帰国

浦東空港 いつも通り、過密ダイヤの影響で出発は遅れました。しかし雪雲は去り、素晴らしい青空が広がっています。その空を飛行機は切り裂くように上昇し大阪に向かいます。関西空港には25分遅れの15時40分に到着でした。
 私の休養は飛行機を降りるまで。ここからは来月の中国出張まで日本に二、三週間の出張に来た気分です。ビジネスクラスで読まれたくたびれた日経新聞をもらって飛行機を降り、帰宅までの間に読みます。30分節約。日本の仕事が始まりました。

第64話終わり

写真1:路面の僅かな雪
写真2:第二の事故:手前の2トントラックと追突車
写真3:第二の事故:先頭のスピン車両と大型トラック
写真4:浦東空港

2016年2月
  中谷酒造(株)代表取締役  中谷正人