酒造りの終了と桜の想い出【酒蔵便りvol.65】

 桜前線が北上中です。酒蔵横の駐車場の桜は、そろそろ見頃。この季節は酒造りのシーズンの終わりに重なります。4月1日は最後のもろみを搾り終え、いよいよ酒造りの終了です。事故もなく、無事終了できたことに感謝しています。蔵では、道具の片付け、布類の洗浄と乾燥など、毎日作業が続きます。シーズン終了まで、もう少しです。

<今月の話題> 桜の想い出

 青空の下に咲く淡いピンクの桜は実に美しく、日本に生まれたことを感謝せずにはいられません。最も多く植えられている染井吉野という品種は、花の咲く期間が二週間程度と短い上に、春は天気が変わりやすく雨に打たれて早く散ることもあります。日本人は、美しく短命の桜の花に人生を重ね合わせてきました。

特攻機「桜花」(遊就館)  男性であれば、武人の死に臨んでの潔さに例えられます。女性であれば、「佳人薄命」。中国北宋の政治家で書家として有名な蘇軾(蘇東坡)の言葉だそうです。美しいものは短命、花も美しい旬を思いっきり楽しむということになります。

 奈良県で桜の名所といえば吉野、郡山城、奈良公園。私はこれに加えて二カ所の桜を思い浮かべます。

  大学を卒業して最初の職場、富士重工業三鷹製作所の桜並木。正門から本館までの約百メートルの両側に牡丹桜が植えられています。満開の桜に迎えられて社会人の一歩を踏み出しました。これに並行して国際基督教大学の正門から続く桜並木もあります。富士重工の前身である中島飛行機時代に植えられたものです。こちらは染井吉野です。

酒蔵横の桜  もう一つは、愛媛県松山市の道後公園です。出向で一年間松山に住みましたが、会社で花見会をしていただきました。良い場所は予め確保する必要があります。夕方の早い時刻から場所取りに動員され、地面にレジャーシートを敷いて準備をしました。蘇東坡が考案したという東坡肉(中国式豚の角煮)といった暖かい料理があれば嬉しいのですが、屋外ではそうも行きません。一人ずつ幕の内弁当をあてがわれ、カセットコンロにヤカンを掛けて暖めた日本酒をいただきました。花冷えで夜気が忍び寄りますので、体を温めてくれる燗酒の美味しいこと。見上げれば照明で明るく輝く満開の桜の天井です。隙間の無いほどピンクの密度は高く、明るく映えます。花びらの浮いた紙コップの酒はつい量を飲むことになり、酔いも回って体も暖まれば、歌の一つも出ようというもの。最高でした。
皆様も楽しい花見をお過ごし下さい。

この号終わり

写真上:特攻機「桜花」(遊就館)
写真下:酒蔵横の桜

2010年4月
中谷酒造(株)代表取締役  中谷正人