VOL.9 松花江(しょうかこう)の真実

投稿日:1997年1月26日

松花江(しょうかこう)の真実 

1.その名

 中国東北地区を代表する大河の名を冠したクルマがある。その名を「松花江」と言う。松花江が 流れるハルビン市で製造され、東北はもとより、広く華北にて販売されている。

 今回は、万感を込めてこのクルマを紹介する事にしましょう。

2.広がるイメージ

 間宮海峡に注ぐ大河、アムール川。中国名を黒竜江と言います。そして、その最大の支流が松花江です。吉林省にその源を発し東北の大地を潤し、黒竜江に合流するまで、全長1927キロメートル、中国東北地区最大の大河です。

 クルマを名付けた人の思いは如何なるものだった事でしょう。大陸を悠々と流れる大河を思わせる重厚な存在感、流れてやまぬ力強さ、そして深い緑の松の木が川面に映える美しさ。そんなイメ ージを膨らませていったのでしょうか。

3.真実を知る

 八人乗り、4気筒の日本製エンジンを搭載、・・・・・・。

 実は、スズキの技術援助で造られた、外観上はスズキの軽の箱バン「キャリー」とほとんど変わらぬセコいクルマなのです。価格が安いし、エンジンが日本製と言うのが決め手となりました。配達用に購入したのです。

 800ccのエンジン。そのヘッドカヴァーには、「SUZUKI」と大きく鋳造文字がうかんでいます。

 確かに、10年程前、スズキが技術指導を始めた頃は、日本製のエンジンを載せていたというのですが、その後内製化が進み、今では日本製部品はエンジン全体の5%、中国で製造できない加工の困難な所だけに使われているとの事、ほとんどが中国製だったのです。

 こんな事なら、地元の天津ダイハツを買ったのに、と悔やまれます。

4.騙された?

 販売会社の営業マンは騙したなどという気は、全く無いはずです。これは、中国のビジネス上の習慣なのです。言葉を鵜呑みに信じた者が悪いのです。

 一つの例を話しましょう。

フォークリフト

 フォークリフトを買う時の事です。商談の時、ディーゼルエンジンは冬場の始動に問題があると言って、しきりにガソリン車を勧めます。そこで、ガソリン車を発注しました。

 どう見ても新品には見えないのですが、中国製品は最初から錆びだらけだったりしますので、新車だと言う言葉を信じて引き取りました。

 ところが、エンジンがほとんどいかれており、物を持ち上げるどころか走るのがやっと、と言う代物だったのです。要するに、中古車に色を塗り直して持って来たのでした。

 当然クレームを付けたところ、ガソリン車はこれしかないと言うので、やむなくディーゼル車を持って来させました。悪びれもせずに、交換していきました。それを使っていますが、冬場の始動も何とかできています。

 要は、ガソリン車の中古が余っていたのでそれを売りたかったのでしょう。そこに、我々が来たので、丁度良いカモ。

 商談は新車を前提にしているので、契約書には「新車」とは書かない。それなら中古を渡しても良い。仮に、ばれて問題になっても交換すれば終わり、という発想のようです。

 要するに、信じた者が馬鹿を見ます。

5.そのクルマ、松花江

 最初からルームミラーは取れていました。

 ドアを中から開けようとすると、取っ手が割れてしまい、以後中からは開けられません。部品の構造と材質の問題ですので、交換しても直ぐに割れることが明白ですから交換はしていません。

 窓の取っ手も握りが取れてしまい。クランク部分を苦労して回しています。

 変速機の調子は最初から良くなかったのですが、時々ギヤーが入らなくなり立ち往生をします。

 又、変速機、デフも含めて全てのギヤー音が激しく、うるさくて乗っていられない程です。

 更に、ガスケットの品質の問題でしょうか、排気ガスが漏れています。それが座席の下から室内に入り込み、気分が悪くなります。

 これだけ不具合があると、いつの間にか感覚が麻痺してきます。ダッシュボードはクルマのボディーに合わない形のものが付いていますが、これは実用上関係ないのでほとんど気になりません。

 しかし、安全上の問題は、少し深刻です。

 ブレーキ液はすぐに劣化してプレーキが利かなくなりました。プレーキ液の品質の問題の様ですが、せめてDOT3程度のものを入れて欲しいものです。もちろん、交換しました。

 又、ドアミラーの凸面が極めて緩く写る範囲が狭くてあまり役に立ちません。従って、車線変更など、全て目で確認、それでも逆サイドは死角が大きいので、時として命がけです。

6.塞翁が馬

 日本人は、工業技術では世界一と言う自負を持っています。それが、僅かな不具合でも見逃さず 、あれはあかん、これはあかんとケチを付けます。物は考えようです。例えば、

A.ドアとポディーのピラー角度が合わないので、いつもすきま風が入ります。その為、タバコを吸っても換気の必要がありませんし、先ほどの排気ガスが室内に入っても中毒にならずに済んでいます。

B.工場で合格証を5箇所に貼っています。そういえば、最初から取れていたルームミラーにも付いていましたっけ。立派なクルマに見えます。

C.ホーンは鳴ります。中国でホーンは、クルマが走る限り、プレーキに次いで重要です。無秩序な交通の中で、相手方に注意を喚起して事故を減らす魔法の道具です。街中で鳴り響いています。

D.ショックアブソーバーが最初からききません。道路の舗装状態が悪い中国では、道路上のギャッ プが多く、乗り越える度にピッチングが激しく、これなしでは早く走れません。おかげで、弊社従業員がスピードを出せず、極めて高い安全性を保っています。

 万事塞翁が馬、気長に付き合って行くしか手は無さそうです。

つづく