VOL.17 若社長ロンドンに行く

投稿日:1997年9月25日

若社長ロンドンに行く

 飛行機は、海峡を超え、ロンドンに向かって高度を下げていきます。地上では、やっと活動が始まる時間です。まだ多くの人が眠っていることでしょう。天気は薄曇り、なだらかに続く草原、煉瓦色した農家が見えます。

 一段と高度を下げた飛行機の窓から郊外の住宅群が見て取れます。二階建てのどっしりした煉瓦造り、どこかで見たことのある形です。思い出しました。天津の租界です。かつて英国人の居住区だったところと同じです。

そんなことを考えているうち、飛行機はヒースロー空港に無事着陸しました。 

 7月の中旬、私にとって始めてのヨーロッパです。日頃なじんだ中国や日本と比べて見る丁度良い機会になりました。

1.街の印象

 先ず驚いたことに、高層ビルがありません。重厚な石造りの建物、赤煉瓦のアパートなど、街全体が建物の博物館の様でした。道幅も広く、落ちつきのある、清潔な街でした。

 クラシックな黒いタクシーも、そして真っ赤な二階建てバスさえもなぜか町並みに合っており、かつての大英帝国の首都としての風格を感じました。

 霧はほとんど出ないそうです。その昔石炭を各家庭で焚いていた頃には、煙の粒子が霧の核になって発生したのだそうです。そういえば天津界隈では、冬、風の無い日に濃霧が出ます。家庭、職場ともに石炭を使うのが原因でしょう。

2.食事はまずいか

 酒と食事は切っても切れない関係があります。仕事がら一番気になるのが食事のことです。通説では英国人は、食事に質素、高級レストランで食べてもあまり美味しくないとか。

 早速、地下鉄の駅に近い軽食店に朝食にでかけました。ミルクティーサンドイッチ、中身は美味しかったのですが、パサパサのパンは少し気になりました。

 翌朝は、ホットドッグを頼むと、細いフランスパンを半分の長さに切り、中をくり貫いてマスタードとトマトケチャップをたっぷり入れて、焼いたソーセージをつっこんで渡してくれました。パンは美味しかったのですが、マスタードが妙に酸っぱいようです。

 時間の余裕が無く、昼も適当に済ませましたが、そんなふうに簡単に済ましている英国人も多いように見受けました。

 夜は、仕事を兼ねて日本料理店に行く事が多かったので、結局、高級店の評価をする機会はありませんでした。しかし、ホテル近くのイタリアレストランでの食事は、価格相応で、日本の同様の店と変わりありません。

3.パブに行く

ロンドンのパブ

 一度は行ってみたかったパブ。パブリック・バー(大衆酒場)の略とか、でも店毎に集まる階層が分かれているそうです。

 最初に入ったのは、ネクタイを締めた人たちが多数を占めていました。先ず注文するは、ビターと呼ばれる地ビールです。炭酸がうすく、冷えていないのですが、味があります。直ぐに一杯空けて、お代わり、くせになる味です。勘定は、COD(Cash on Delivery:現金引き替え)です。 

 有名なフィッシュ・アンド・チップスも食べてみました。三枚におろした鱈の半身に粉を厚く付けて揚げたもの、それにチップス、即ち山盛りのポテトの空揚げ(米語的な表現では「フレンチフライズ」、あるハンバーガー店の影響で日本では「フライドポテト」と呼ぶ人も多い)が付いています。

 衣の厚さが気になりましたが、揚げたてを何もつけずに食べたところ、魚の味を生かした程良い塩加減で、結構ビールの肴に合いました。チップスは、魚と同じ油で揚げていますので魚臭いのですが、英国人はケチャップや酢などをたっぷりかけるようで、気にしていないそうです。

4.英国人は酢好き

そういえば、ウィンザー城のそばのパブでは、日本で言うところのポテトチップ(芋をつぶして、薄焼きにして、塩をまぶしたもの)を食べましたが、酢味でした。土産に買って帰ったニシンの酢漬けもかなり酢がきいていました。

 どうも英国人は、酸っぱいものに強いようです。

5.郊外の印象

 パリに日帰りで行く途中、ユーロスターの窓からロンドン郊外の農業地帯を見ることができました。なだらかな丘陵には羊を放牧しているようです。

 ところどころにある集落は、教会を中心に、赤煉瓦のきれいな建物が集まっています。結構、天津・北京間の高速道路から見える華北平原の景色と似ていたので驚きました。どちらも麦作地帯、羊がいて、人口密度は高くありません。

6.英国人のゆとり

 英国人は、あまりあくせくしていないように思われました。6時ごろにもなれば、パブに結構客が入り、サマータイムで10時過ぎまで外が明るい夏の夜を楽しむようです。人口密度の為せる業か、はたまた生活の豊かさを長期にわたって享受してきたせいでしょうか。

 天津や北京でも夏は、夜遅くまで夜店に出歩いたり、外で涼んだり、道路に面した屋外でビールを飲んだりと、ゆっくりしています。日本人のゆとりのなさに気付かされました。

7.日本人の不文律

 今回は現地の問屋さんの営業マンと同行セールスで回りました。その方は英国に長く、日本と英国を比較して「日本のビジネス社会には不文律が多すぎて、日本で働くのは疲れる。」と話されました。

 ビジネスマンの常識、こんなふうにやるべき、やらないべき、最低限のマナー、いちいち教えるまでもないという部分があって、それを期待されている、といったことのようです。

 この言葉はちょっとしたショックでした。

 中国の状況にあてはめて考えれば、多くのビジネスマンが感じているストレスのかなりの部分は、中国特有のものでは無くて、日本人が常識と信じ込んでいる不文律と、それを知らない「外国人」とのギャップに起因するのではないか、と思えてきたのです。

 「責任感」一つ取ってみても、「どんな仕事でも責任感をもってやるのが当たり前、そこにやりがいを見いだすべき」と考えるのが日本人でしょうが、冷静に考えてみれば、責任感は任されてこそ生まれ、それが日本的な「やりがい」になる為には、責任に対する見返りと責任を果たせなかった場合の不利益が均衡する必要があるようにも思えます。

8.で・・・

 「でもやっぱり、中国は大変だよ。」という言葉が聞こえてきます。確かに、発展途上国特有の困難は多々あるでしょう。しかし、先進国でも発展途上国でも共通した困難があるはずです。

 それらを分けて考える事を再認識できた点でも今回のロンドン出張の成果を実感しています。

 中国が始めての外国である方が、特にストレスが貯まるようですが、こんな観点から一考してみては如何でしょう、ちょっとは酒の量が減るかもしれません。いや、失礼、酒が一層美味しくなるかもしれません。

つづく