VOL.36 初めての街を行く

投稿日:1999年6月09日

初めての街を行く

 華南の海沿いのある街を一人で訪れました。見知らぬ街を歩くのは楽しみです。古い建物や市場、路地などを見かけると、その歴史やそこに住む人々に興味が湧いてきて、立ち寄りたい誘惑に駆られます。

1.地図が頼り

 的確に街の概要を知るには地図が一番です。タクシーで移動するにしても道路を確認しながらでなければ遠回りされたり、予想外のところに連れて行かれる可能性もありますので、乗りながら地図を追っていきます。

 市販の市街図は縮尺が書いていないので、太陽の向きで方位を確認しながら移動距離の見当をつけます。大きな交差点、大きなホテル、役所の建物、駅などポイントを押さえながら一度通ったところは、忘れないように風景を目に焼き付けます。結構、集中力が必要です。

2.教会

 大きな河にさしかかりました。陽光が河沿いのキリスト教会と南欧風の建物を浮かび上がらせています。これを見てロマンチックな情景と見るのが日本人とすれば、中国の人々の捉え方は違います。

 中国の大きな街には大体どこでも古い立派な教会の建物があります。交易と引き替えに布教を行い、何れ宣教師あるいは宗教への弾圧を理由に武力を行使して植民地化を進めるというのが西欧諸国のパターンでした。

 今世紀に入ってからでも衰えた清朝から利権を奪うべくこの方法を踏襲していました。そんな過去を忘れない為に保存されている歴史的建造物なのです。

3.路地

 方向から見て、この路地を抜ければ近道です。幅2メートル程の路地はあみだくじを横切るようで、真っ直ぐには抜けられません。そんな訳で、人通りはまばらです。日本の古い町並みを抜けるが如く、時間がゆっくりと流れています。

 引退した老人の疑い深げな視線を感じます。自分の庭に勝手に入り込まれたような、そんな感覚があるに違いありません。洗濯物が干されています。夕食の支度の始まっている家もあります。油っぽい熱気と炒めものの良いにおいが漂ってきます。

 扉の奥には、内庭の緑が見えます。小さい間口の雑貨屋があったり、写真屋があったり、公衆電話を置いた店では飲み物を売っています。この路地だけで完結する生活があるのでしょう。

4.大通り

 スーツの上下を着て、そのズボンのプレスラインが通っていて、しかも磨いた靴を履いているというのは目立つ格好と言えます。初めての街は治安状況が不明ですから用心に越したことはありません

 先ず地図を手に持っていては、よそ者であることを宣伝しているようなものです。手提げ鞄にしまいます。そしてそれを人の少ない側に持ちます。後ろに注意して歩きます。

 夕暮れどきですから照明が十分でない公園は横切りません。物乞いの人の脇を通り抜けて、ホテルのロビーにたどり着くと、やれやれです。

5.建設ラッシュ

 翌朝テレビを見ていると、ニュースの後に防犯ドア(防盗門という)の広告が3社続けざまにありました。ちょっと笑ってしまいましたが、単に治安だけの問題でないことに気付きました。

 現在、中国政府は持ち家政策をすすめており、少し裕福な人たちはマンションを購入しているのです。又、それらを建てる為に市内の老朽化した住宅を取り壊し、郊外に代替アパートを建てています。

 多くの人が新しい建物に移りつつあるのです。よく見ればこの街も建設ラッシュ、急激な発展が社会のひずみを生んでいるのでしょう。

 でも朝から続けて3件とは・・・。やっぱり治安が良くないんでしょうね。

つづく