VOL.49 丼と重

投稿日:2000年7月03日

丼と重

 ある時、表題の違いについて中国の人から質問されました。読者の皆さんならどう答えますか。

1.日本のファストフード

 中国では御飯を食べる時、おかずを上に乗せて一緒に箸で口にかき込みます。一方、日本ではおかずを御飯に乗せることは一般的ではありせん。御飯とおかずは別々に食べることになっていますし、茶碗に口を付けることも多くないはずです。

 ところが、最初から御飯の上におかずが乗っており、一緒に口にかき込むことを前提としたものがあります。丼です。これは一膳飯屋で食べる簡単な食事、日本流ファストフードです。

 「値段も違うんですよ。」メニューの鰻重と鰻丼、カツ重とカツ丼のところを見れば一目瞭然です。

2.丼のルーツ

 江戸後期、江戸湾で採れる豊富な魚介類を使って、握り寿司が生まれました。天麩羅も盛んに食べられるようになりました。これらは屋台で食べるファストフードとして広まったそうです。そこには、千葉で醸造される小麦を原料に加えた醤油が大きな役割を果たしました。天麩羅つゆ然り、寿司につける醤油然りです。醤油ベースという日本料理を特徴づける味付けが固まっていきました。

 その後天麩羅は、御飯と結びつくという至極合理的な発展を遂げ、やがて丼が生まれました。

 もっとも、天麩羅については、従来通り塩をつけて食べるという方法は厳然と存在しております。中国にも京料理を出す店がありますが、そんなところで「天麩羅つゆはねえのか!」なんて怒鳴ることのないように、念のため付け加えておきます。

3.中国の伝統

 一方、中国では朝食そのものがファストフードです。特に北方では、朝食は外で食べるか、外で買ってきて食べるのが普通だからです(汁物も鍋持参で持ち帰ります)。代表的なものを幾つか挙げてみましょう。

 油条(ヨウティヤオ:揚げパン)、饅頭(マントウ:蒸しパン)、餅(ピン:薄焼きパン)、包子(パオツ:豚肉、野菜など具の入った蒸しパン)、それに私の好物。それは、鉄板の上で紙のように薄く小麦粉を伸ばし、その上に玉子を薄く伸ばし、火の通ったところで味噌を塗って刻みネギをふって、それで油条をクルクル巻いたものです。

 これら主食に合わせる汁物としては、希飯(シーファン:白粥)、豆乳(砂糖味と塩味があります)、餡かけ豆腐(片栗粉でとろみをつけたスープを作りたての温かい豆腐にかけてある)、ワンタンスープ、ヨーグルトなど。茶玉子(出涸らしの茶の葉っぱで炊いた鶏の玉子)も定番です。

4.新メニュー

 最近、天津市内で「牛肉麺」なる看板を見かけます。未だ食べたことはありませんが、四川省の辛い汁そばとのこと。汁そば自体そうですが、北方には馴染みのないものです。

 中国で肉(ジョウ)と言えば豚肉を意味します。鳥肉は、鶏肉(チージョウ)として区別します。牛肉(ニウジョウ)は、ごく最近家庭にも浸透してきましたが、まだ一般的ではありません。この名前は人目を引きます。

5.試してみる

 朝食を出す店は、上海に普及しているこぎれいなチェーン店は例外として、普通は小さな店や屋台です。決して衛生的とは言えませんが、火を通したものですので安心は安心です。非常に安いし、作りたては美味しいものです。

 ただし行列の習慣がありませんので、人気店では老人や我々外国人は待つ覚悟が必要です。

6.外国の影響

 最近は、米国系のハンバーガーやフライドチキンの店が驚異的な勢いで増えています。台湾系のものも急追中です。そんな中、ハンバーガー店は、いつも子供達で一杯です。両親のみならず、父方のおじいさんとおばあさん、母方のおじいさんとおばあさんの計六人に代わる代わる連れていってもらえるのです。

 この情景を見る限り、牛肉の浸透だけでなく味付けの画一化など中国人の味覚や食生活が変わっていくのも時間の問題でしょう。日本の歩んできた道です。時代の流れとはいえ、少し残念な気がします。

つづく