VOL.57 短縮の習慣

投稿日:2001年3月05日

短縮の習慣

 20年前、私が東京の大学生であった頃のことです。

 「アイス食べましょうよ。」

 そう言われて、「アイス?、東京ではかき氷を英語を使ってアイスというのか、ハイカラやな」と思っていたら、彼女はアイスクリームを注文しました。

 東京ではアイスクリームやアイスキャンディー、シャーベットも、果ては冷たいコーヒーに至るまで、「アイス」と呼ぶことを知りました。このように短縮語は地域によって違います。まして国が違うとなると・・・。

1.日本語では

 プロフェッショナルを略して「プロ」、ヘリコプターを略して「ヘリ」(余談ですが、英語ではコプターと略すそうです。

 但し「ヘリポート」の場合は共通です)。その他、「エアコン」、「ラジカセ」、最近では「デジカメ」、「パソコン」など、横文字の短縮形は多く使いますが、一般には単語を略して使うことは少ないようです。

  一方漢字の国、中国では、漢字単位で大幅な短縮が行われます。漢字しか使えませんので、書く手間や読む手間を省く生活の知恵と言えるでしょう。

2.職場では

 取引先から銀行口座を尋ねられた場合、書面であろうと口頭であろうと銀行のフルネームを答えることはありません。「建行」(中国建設銀行)、「農行」(中国農業銀行)といった具合です。

 自社名であっても妙に短縮してしまいます。社名変更があったとしても従業員達はあまり気にしていません。ですから、契約書を交わす場合、以前の名前で書いてあってそれを指摘したとしても「(実態は)同じですやん。」と言われる始末です。

 所在地にしても、登記書に書かれている通り正確に書かれていることはまれです。

3.新聞では

 「全人代」(全国人民代表大会)、「科技」(科学技術)、「石化」(石油化学)、「外経貿委」(対外経済貿易委員会)といった具合です。

 スポーツなら「亜運会」(亜細亜運動会、要するにアジア大会)、「世体賽」(世界体操大会)、同様に世界卓球大会も三文字、オリンピックは「奥運」と二字です。

 これらは、街中に掛けられるスローガンであったとしてもこのまま使われ、口頭であってもフルネームで言う人は居ません。

4.街では

 私が見せた地図を覗き込んで運転手は言いました。「二宮付近。」そして着いた先は、天津市第二工人文化宮の先を少し入った所でした。工人とは都市労働者のこと、工人文化宮は都市の人々の娯楽センターです。天津には規模の大きいのが2つあって、その一つを「二宮」と呼ぶことを知りました。これを正式名称で言う人には未だお目に掛かりません。

 「機場」これは、空港の事です。中国語で飛行機の事は「飛機」と言います。「飛機場」が短縮されたものです。

 これが正式名称ともなると、日本では略することは考えにくいところですが、中国では短縮形が正式名称かもしれません。「天津飛機場」と言う人はいないからです。「同じやん」という感覚と思われます。空港使用料のチケットにも「機場管理建設費」と印刷されています。

5.日本のラジオを聴いていると

 「ニコの奏者」などと紹介しています。続けて聴いていると、どうも胡弓(こきゅう)のことのようです。「胡」は、西域いわゆるシルクロードの通る地域を意味します。胡椒、胡瓜(きゅうり)などその地域から伝わったものには「胡」の文字がついています。ですから、西域から伝わった弦楽器です。

 「ニコ」ですから、「二」弦の「胡」弓かなと想像し、辞書を引いてみましたら当たりです。胡弓には、4弦のものと2弦の物があり、前者を四胡、後者を二胡と言います。後者の中でも京劇に使う物は、少し小振りで京胡と言うそうです。

 従来からこの楽器は「胡弓」として日本で知られています。ラジオの番組制作者はこれを知らず、中国人の奏者に「これは何ですか。」と尋ねたのでしょう。答えは「二胡です。」「そうか、これは二胡と言うんだ。」と納得したに違いありません。

 勿論、これは間違いではありませんが、中国の人々の短縮する習慣を知っていれば、意味不明の二字の組み合わせに疑問を持って辞書を引き、「中国で一般に二胡と呼ばれる二弦の胡弓の奏者です。」と紹介できたかもしれませんね。

つづく