VOL.125 マナー改善の日

投稿日:2006年11月10日

マナー改善の日

北京五輪のマスコット「歓歓」

 今年8月から中央精神文明建設指導委員会のマナー向上キャンペーンが始まりました。「ゴミを路上に捨てない」、「痰や唾を吐かない」、「大声で騒がない」、「行列に割り込まない」、「上半身裸で歩かない」といった他愛ないものです。

 「旅遊文明素質行動計画」という大層な名前を付けて旅先でのマナー改善を目的としていますが、北京オリンピック開催を再来年に控えて、外国人から見た「中国人」の改善を狙ったものであることは明白です。

 現状を熟知されている方は「オリンピックに間に合うはず、あらへんがな!」と即断されるかもしれませんが、かなり良い線まで行く可能性も残されています。

 鍵は文化大革命(以下、文革。ぶんかく)の影響をあまり受けていない三十代や文革終了後に生まれた若い世代にありそうです。

1.文化大革命

 今年は文革40周年です。文革は、偉大な革命家である毛沢東が自己の権力復活の為に興した政治活動ですが、あまりの被害の甚大さに中国では否定的に評価することが定着しています。

 文革は政治権力闘争の手段だったのですが、知識人及び教育を攻撃の対象としましたので後世に大きな禍根を残しました。学校教育が否定されたのみならず道徳律など伝統的な社会の規範が否定されました。余波は家庭での躾やマナー教育にまで及びました。

2.教育の破壊

 ほとんどの中高生は意味も解らないまま文革の理念に熱病のようにほだされ、紅衛兵として毛沢東バッジを胸に付け、毛沢東語録を片手に赤旗を振って社会秩序の破壊を始めました。教師をリンチに掛けて教育現場を武力闘争の場にしました。

 「勉強しなさい」と言う親が居ようものなら「革命活動を妨害した」として血祭りです。そうして殺された親の子も一転して「反革命分子」としてリンチの対象にされました。

3.影響を受けた世代

 現在55歳の人は文革開始時に中学三年生です。この前後の年代が紅衛兵の中核を担いました。自ら社会と教育を破壊して高等教育を受ける機会を放棄しました。大学は知識人を養成する場所ですから当然の如く機能を停止しました。

 紅衛兵活動は三年ほどで終了させられましたが、文革は1976年まで10年続きました。現在45歳の人は、文革開始の二年後に小学校に入学しますので文革終了時に中学3年生。この間、十分な教育を受けることができませんでした。

 このように四十代から六十代にかけて上下約20歳の幅の世代の教育が影響を受けました。

4.文革からの回復

 1978年に大学入試が復活しました。大学教育を受けられなかった人々が一度に受験しましたので極度の狭き門、やはり現在四十代末から六十代初めに掛けての年代はほとんどの人が大学教育の機会を逃しました。

 現在三十代の人は文革開始後に生まれましたが、文革終了と共に教育現場の秩序が回復しますので、少なくとも中学以降は正常な教育を享受できました。家庭での躾やマナーも復活していきました。

 すかさず改革開放経済が始まります。外資導入が進み、新たな雇用が生まれ、努力すれば豊かになれる市場経済が始まったのです。

5.教育と所得水準

 最近の調査によりますと年収10万元(約150万円。物価水準から見て日本での七、八百万円に相当)を越える高額所得者の割合は、三十代と二十代が高いそうです。四十代以降、年齢が上がるほど平均年収が下がります。

 所得の高い人は概ね大学を卒業しています。そして外資系企業に勤める比率か高いのも特徴です。外資系企業では、「鉄飯椀」(食いっぱぐれのないこと。親方日の丸)的な甘えは許されません。

 自分の能力を高め、質の高い仕事をし、相応の地位と給与を勝ち取ります。或いは自身で起業し、経営者として活躍しています。

 学歴と所得は比例の相関関係を示します。親は子供を少しでも良い大学に入れようと教育熱心です。その為には良い高校、良い中学、良い小学校と連鎖し、子供達の受験勉強は熾烈を極めます。親は教育費の出費を厭いません。

6.新しい「中国人」

分別収集されるホテルのゴミ

 今日、中国は政治理念が支配する社会から経済中心の社会に変貌しています。文革後に教育を受けた世代が消費、そして文化を牽引する厚い層を形成しています。この世代は向上心が旺盛です。

 先進国の洗練された社会、文化の情報に敏感です。その結果、中国が遅れた国であることを知っています。それらを知るにつけ、先進国に追いつき追い越したいという願望が高まります。

 そうしますと先進国から自分達中国人がどう見られているか非常に気になってくるのです。これがマナー向上の原動力です。

 中国には「四千年の歴史」の誇りがあります。オリンピックでは良い所を見せたい、良く見られたいという願望が世代を問わず存在します。

 新しい意識を持った二十代から四十代前半がマナー改善に動けば、それに押されて親やその世代、周りの人々が変わって行くに違いありません。

7.そう言えば

廃品回収車

 所構わず捨てられていたゴミもゴミ箱に捨てられ、その分別収集も広がりを見せています。

 国内線の空港待合室で観察していますと、磨いた靴を履くビジネスマンが急増しています。

 どこまでマナーが改善するか、北京オリンピックが楽しみです。

つづく

写真上:北京五輪のマスコット「歓歓」
写真中:分別収集されるホテルのゴミ
写真下:廃品回収車