VOL.152 茶の歴史と文化

投稿日:2009年2月06日

茶の歴史と文化

 2008年11月30日、マスコミ各社は茶の栽培が今まで考えられていたより何千年も前に始まっていた可能性があることを報道しました。

 「中国浙江省の初期稲作集落跡・田螺山遺跡で、五千五百~六千年前の地層から世界最古の茶畑とみられる遺構が見つかり、金沢大の中村慎一教授(考古学)らの日中共同研究グループがこのほど、金沢市で開かれた成果報告会で発表した。」(日本経済新聞)。

1.「茶」の始まり

 中国南東部の雲南省、貴州省、四川省には野生の茶の大木が生えており、茶の原産地と推定されています。いつの頃からか茶の利用が始まり栽培されるようになりました。

 これらの地域から流れ出た川は合わさって揚子江(長江)になり、田螺山遺跡のある浙江省で東シナ海に注ぎます。

 田螺山遺跡で発見されたものが茶畑であったとすれば、原産地の近くでは六千年前どころか遙か昔、場合によっては農業開始直後から栽培が始まっていた可能性もあります。

 記録上は、三千年前に四川で栽培が行われており周の武王に献上されたこと、二千五百年前の春秋時代の斉に茶で煮込む料理があったこと、前漢(紀元前一世紀)に商品として流通していたことが確認できます。

2.神農さん

 神農は農業の神、そして薬草をみつけたことから医薬の神です。中国では民間で盛んに信仰され、日本にも伝わりました。例えば奈良県桜井市の大神(みわ)神社境内に祀られ、薬業界の信仰を集めています。

 後漢代に書かれたとされる「神農本草経」(後の唐代に陶弘景が再編纂)には神農が野草の毒を茶で解毒したと書かれています。茶の利用は薬として始まり、薬膳として食されて来たのです。

 隋の文帝(在位581~604年)は茶を薬として飲み快方に向かいました。これを契機に上流階級に喫茶が広まり、接客の飲料として用いられるようになります。

3.普及と日本への伝来

ジャスミン茶

 隋の後を継いだ唐の時代、喫茶の習慣は庶民に拡がり、茶税が徴収されるほどになりました。それに従って茶道具も作られ始めます。

 当時の茶は、摘み取った茶葉を蒸した後、保存と輸送のために団子状或いは煉瓦状に固めて乾かしたものでした。砕いて煮るか、粉に挽いて熱湯に入れて飲みました。粉に挽く飲み方は日本の抹茶に残りましたが、現代中国では廃れています。

 唐の永貞元(805)年、日本の留学僧最澄(後の伝教大師)が茶の木を持って帰国しました。日本で茶の栽培が始まります。

 もっとも、遣唐使船以外にも私貿易船が行き交っていましたので、唐で喫茶が盛んになった奈良時代には既に茶が伝わっていたはずです。

 弘仁6(815)年には最澄と同じ頃帰国した僧永忠が嵯峨天皇に茶を点てて献上しています。「安全・安心な国産茶葉100%」と言ったかどうか。

4.宋の時代

 宋は豊かな時代でした。固めた茶以外にも現代のような茶葉での流通も始まります。茶の加工も多様になり、茶葉の種類も増えていきます。後の明代には王朝の命令もあり、茶葉のままの流通が主流になります。

 茶は内陸へも拡がりました。宋の北辺は遼、金、元と続く遊牧民が建てた国の脅威にさらされ続けました。宋は、朝貢貿易で金銀玉など貴重品を与えると共に、馬と引き替えに布、茶、薬、その他生活必需物資を供給して和平を保ちました。

 特に茶は遊牧民の重要なビタミン源でしたので、これの供給が途切れると健康を維持できません。宋は茶の供給を管理することで交渉の優位に立てたのです。この状況は清代に至るまで続きました。

 供給された茶は煉瓦のように固めたもので、ミルクにナイフで削って入れ、煮込んで飲みました。

5.現代に至る

「茶道」教育を受けた客室乗務員(東方航空報2007年6月)

 茶道と言えば日本の伝統文化が真っ先に浮かびますが中国にも「茶道」があります。中国では、正式なお茶の入れ方、楽しみ方といった意味です。大陸では文化大革命期に消えてしまいましたが、台湾では茶館と呼ばれる喫茶店が脈々と文化を継承してきました。

 静かな個室に通され茶葉を選びます。専属のウェイトレスが急須に葉を入れ、湯を注いでさっと流し、急須を逆さまにして葉が開くのを待ちます。程よい頃、湯を入れて小さな茶杯に注いでくれます。色を楽しみ、香りを楽しみ、口に運びます。

 一番茶は特に香りを楽しみます。二番茶は芳醇な味を楽しみます。そして更にもう一杯、といった具合です。中国にも「和、静、清、廉」と日本に近い概念があります。寛ぎのゆったりした時間が流れます。

 日本に対抗している訳でもないのでしょうが、中国では近年、茶文化を広める活動を盛んに行います。昔ながらのサービスをする高級茶館もできています。

 ただ、革命後は急須さえ用いなくなり、湯呑に直接茶葉を入れるまでに茶文化が崩壊していますので、復活には時間が掛かりそうです。

つづく

写真上:高山烏龍茶
写真中:ジャスミン茶
写真下:「茶道」教育を受けた客室乗務員(東方航空報2007年6月)