1.「いろは」の「い」
一般市民にとって住宅といった高額商品はローンを組んで買うのが普通です。ローンの貸し手である金融機関は利益を上げて株主に報いる必要があります。返済が滞れば損失が生じますので、誰にでも融資するという訳には行きません。
借り手の信用度を審査し、融資しても良いか、融資できるとして幾ら貸せるか、金利などの条件はどうするかを決めます。住宅を担保に取りますが、老朽化や相場下落に備えて、住宅価格全額を貸し付けることはあまりありません。
2.ある国で
融資した貸付債権を無尽蔵に買ってくれる神様が現れたとしましょう。例えば、年利5%で貸し付けた1億円の債権を1億200万円で即金で買ってくれるとすれば、貸して直ぐに資金の回収と確定した利益を手にすることができます。
ある国では、そんな夢のようなシステムが金融工学の進歩で生み出されたのです。
「神様」の秘密はこうでした。いろんな金融機関から債権を購入し、それらをまとめて一定額面の債券に加工し、それを販売するのです。
多様な債権が混じっていますので、全体として見れば債務不履行リスクは分散され、安心に見えます。おまけに格付け機関が投資適格と判断してお墨付きを与えます。これによって債券の売れ行きは好調でした。
3.深みへ
人は欲が深いものです。うまく行くとなればどんどんはまって行きます。信用度の高い優良顧客にだけ融資していたものが、徐々に信用度の低い顧客にも融資を始め、それでも貸付債権はどんどん売れるので、全く信用のない人にも融資の裾野が広がりました。
おまけに住宅価格の値上がりを見込んで、全額貸付も行われるようになりました。
普通人の感覚では、金利を払う必要がある借金には慎重になりがちですが、担保に入れた家さえ手放せば借金も金利も棒引きという条件が付くのが普通になり、新たな借り手が開拓されて行きました。
4.終焉
誰かが言いました。「ちょっとやり過ぎとちゃうやろか。あの人は、何年もホームレス生活をしたはったのに、あんな立派な家を建てはった。」
誰もが行き過ぎに気付いていましたので、債券の買い手がいなくなりました。貸付債権を持っている金融機関は、売却できなくなり不良債権を抱え込むことになりました。
債券を持っている金融機関、投資家は見切り売りもできず、償還される見込みの薄い債券を塩漬けにすることになりました。金融機関は互いに信用できなくなり、資金が回らなくなりました。
5.お守り
そんなこともあろうかと、「お守り」(Credit Default Swap)を売る保険会社もありました。「お守り」に書かれた金融機関が破綻した場合、「お守り」の金額に従って現金を受け取れるというのです。
ところがどっこい、「お守り」を売っていた会社が経営破綻の危機。単なるお守りに過ぎないことが判明したのです。その保険会社は政府から救済資金を注入してもらったにもかかわらず、その金を経営者や従業員のボーナスに使ってしまいました。末期的です。
金融機関は政府の融資で息をつなぎましたが、家を買う人が激減しました。多くの人が家を担保にクルマを買っていましたが、そんな人もいなくなりました。物が売れなくなり、不況がやってきました。バブルが大きかっただけに、この不況は長引きそうです。
6.後ろ頼み
バブルがはじけたその国は、世界の消費のリーダーでした。日本はその国へ物を売ることで経済の好調を維持してきました。新しい売り先を見つけなければ日本の経済も長引く不況に入りそうです。
ふと後ろを見てみますと、その国と同じくらいの消費がありそうな国があることに気がつきました。今までは発展途上国だったのですが、急激な経済成長でいつの間にか大きな規模になっていたのです。
世界最大の自動車市場になり、粗鋼生産も世界の半分を占めるに至りました。経済成長率も二桁を切ると騒いでいますが、それでも8%程度の成長は見込まれています。来年は史上最大の万国博覧会も開かれると言います。
発展途上ですから、先進国のような物の飽和感には程遠く、まだまだ幅広い物への需要が期待できます。日本は前を向きながらも、徐々に後ろを向く回数が増えているようです。
つづく
写真上:天津・北京間を結ぶ新幹線型車両
写真下:斬新なデザインの北京南駅(和諧之旅2009年2月NO.42より)