今宵の晩餐 vol.2 花冷えにはおでん

投稿日:2022年4月12日

おでん

皆さん、こんばんは。六代目当主の中谷正人です。

連載の二回目。家飲みの楽しみを分かち合いましょう。
今年の桜は早く、少し心残り。花冷えという言葉もありますが、寒さの残る夜の暖かい食事を冷酒で楽しみましょう。

主役の酒

清酒 三日踊(みっかおどり)純米吟醸 山乃かみ酵母

 この酒の酵母菌は、奈良盆地東側にある桜井市の大神神社境内の笹百合の花から採取したものです。花は蜜を持ちますので、野生の酵母菌が住み着いています。この酵母菌はバナナのような甘い香りとリンゴ果汁のような旨味を作ってくれます。米は大和郡山産の山田錦。中谷酒造管理田では私も含めた蔵人が汗を流して栽培しました。

三日踊とおでん

アテ

おでん

 私の子供の頃は、串に刺したものをおでん、刺していないものを関東煮(かんとだき)と区別しましたが、今はどちらもおでんです。因みに中国の日系コンビニでは「関東煮」と表示されています。

出汁(だし)は、削り節と昆布。タネは、大根、こんにゃく、玉子、タケノコ、厚揚げ、イカ天(イカが入った魚の練物を揚げたもの)、ホタテ、それに出汁兼用の干シイタケとすじ肉です。すじ肉は酒と水で煮立て、包丁で適度な大きさに切ったものを爪楊枝に刺しました。

味付けは薄口の丸大豆しょうゆ。昼に一度煮立て、夕方まで放置します。冷める時に出汁が染み込みます。

晩餐

今宵も家内と一緒に晩酌(ばんしゃく)です。

酒はやや冷やして10℃くらい。冷酒グラスでいただきます。
先ずは大根。出汁の味を楽しむ王道こそ大根。複合的で濃厚な出汁が沁み、やさしい味わい。大根を呑み下し、その後独立して酒を口に入れます。果実感が口いっぱいに広がり、酒を純粋に楽しみます。

次はこんにゃく。燗酒と合わせるなら辛子を付けるのですが、今宵は冷酒。辛子抜きで素材風味を味わいます。細かく切れ目を入れていますので味が入り込み、歯ごたえとジワリと染み出る出汁が感動を生みます。

そしてイカ天。煮ている時は二倍くらいの大きさに膨らみ出汁を吸い込み、皿によそられると元の大きさに縮んでいます。練り物は旨みが豊富で、口の中で酒と混じり合い互いに高めあってくれます。

玉子、タケノコ、厚揚げ、シイタケ、ホタテと進み、最後はすじ肉。酔いも適度に回り、味覚が徐々に鈍りますので、濃い味のものを最後にしました。すじのコリコリとした歯ごたえ、ゼラチン質と油の甘味、そして肉の旨み。口の中で酒と混然一体となり期待通りの感動です。幸せなひと時を過ごせました。

ではまた次回。