VOL.24 浦島太郎

投稿日:1998年5月23日

浦島太郎

1.4度目の春

 華北の春は、良いものです。冬が長く厳しかった分、暖かくなり始めると劇的に春が訪れます。道路脇の草が緑に色づき始めたと思ったら木々も一斉に芽吹き、それまで緑一つ無かった枯れ草色の風景が緑一色に変わります。

 猛暑の夏にバトンタッチするまでの2ヶ月間、短い春を満喫します。私は、もう4度めの春を迎えました。

2.進歩の早さ

 天津に最初に来た頃は、道路の清掃もされず、路肩には厚く土砂が積もっていました。街灯もろくに無く、路面の白線さえ無い情況でした。風が吹けば埃だらけ、毎日風呂に入るのが待ち遠しかったものです。

 それが今は、整備され、外出しても顔の汚れが気にならなくなりました。信号もかなり増えてきました。高層ビルがどんどん建設され、道を行く人々の服装も年々あか抜けし、日本と変わらない服装の人も増えています。

 中国が変わったのか、私が慣れたのか、「中国に馴染んだなあ。」そう思うこの頃です。

3.なんですか

 一方、日本の情報に疎くなるのはやむを得ません。いわゆる浦島太郎状態です。歌謡曲は勿論、テレビコマーシャルや生活の流行には全くついて行けません。

 「それって何のこと?」先日も「食物繊維入りの清酒」なるものが話題になっていました。

4.これですか

 「ドッヒャーン!」ブッ飛びのパッケージです。パッケージはレタス色、レタスのイラストが入って「ファイバー イン」、なんでもコップ一杯あたりレタス半個分の食物繊維が入っているそうな。徹底しています。

 パッと見た目は、野菜ジュースですが、相撲取りのまわしのマークが入っていますので辛うじて清酒であることが想像できます。

 これを作ったメーカーは、もともとカップ酒で売り出したところで、駅の売店を中心に「オッサンが飲む酒」を主力としています。私も試しに飲んでみましたが、コップ酒というのは見栄えが良くない上に、中身も飲みくだすのに努力が要るような酒でした。

5.なんでやねん

 まあ、「オッサンが飲む酒」というイメージからの脱却をはかったことは理解できますが、どう考えても若い男性が食物繊維につられるとは考られませんし、となると残るは女性がターゲットですが、女性が酒で食物繊維を取るというのもどうもイメージが湧きません。

6.10年前に

 そういえば「食物繊維」と聞いて、思い出したのは、10年前の機能性飲料ブームです。食物繊維入り、カルシウム入り、最後は鉄分入りまで各種のものが出ました。さては、これの焼き直しの発想、良く見ると箱には「サラッと、まろやかに。センイが変えたおいしさです。(原文通り)」と書いてあります。

 「この分やと、カルシウム入りと鉄入り清酒がシリーズ化されるんちゃうか。」

 「鉄入りは、酒の色が赤なるんで差別化にはもってこいや。」
などと、思わず家族で盛り上がってしまいました。

7.十年一日

 「まろやか」や「おいしさ」を実現するには、米を良く磨き、蒸し、そして良い麹を作る、アルコール添加量も極力減らすというのが、常道のはずです。


それを、食物繊維で飲みやすくするというウルトラC、製造コストを下げるという企業の論理優先の中に消費者の視点は見えてきません。

 日本人の酒として伝統を重んじる業界にあって、敢えて製品化した企業経営陣の勇気は評価されて良いでしょう。しかし、この発想を見る限り体質が古いと言われ続けている清酒業界に浦島太郎の影を見るのは私だけでしょうか。

 ここのところニュースといえばバブルの清算やら国鉄債務など十年一日の如し、中国の変化が著しいだけに日本の進歩について考えさせられる思いがしました。

つづく