VOL.39 工・農・兵

投稿日:1999年9月05日

工・農・兵

1.成熟した社会

 英国は、階級社会といわれます。階級によって食生活から毎日読む新聞まで違うそうです。これは、英国に限らず、階級闘争の理論をその根幹とする共産主義思想を生んだ、西欧というものの体質かもしれません。

 最近は、メージャー前首相の出身を見てもわかる通り、階級はかつてのように固定化されたものではなく、その間を移動できる、いわば階層といったものになってきたようです。

2.日本の特殊事情

 日本でも今世紀初頭に上記思想の影響で「労働者」といった階級を想定しました。しかし国民総中流意識が示すように、西欧的な概念の階級が存在しないばかりか、階層も上下の幅が薄っぺらいものになっているようです。

 二百年の平和が続き、長崎を窓口に空前の量の海外貿易が行われた、交通網が整備され全国の物流が活発となった、一般庶民にまで教育が広まった、そんな「江戸時代」というものに秘密がありそうです。

3.現代中国の原則

 さて、中国で「人民」は、工人(都市労働者)、農民、兵士の3つに分けられます。そしてそれらを指導するのが中国共産党です。この工・農・兵から江戸時代の身分制度「士農工商」を連想される向きもあるでしょうが、プロレタリアート独裁の中国では、階級と見る訳にはいきません。

 しかし、工と農にはちょっとした違いがあります。これが今回のテーマです。

4.私営経済

 国家統制経済下では、「工」も「農」も国によって職場に配置され、住む場所も提供されました。「工」の人には工場が、「農」の人には人民公社(集団農場)が決められました。

 70年代末、改革開放経済が始まりました。農民であれば土地の耕作を請け負って、取れた作物を自由市場へ売りに行きました。都市であれば商店を始める人がでてきました。個人で行いますので個体経済と呼ばれます。

 やがて私営企業が生まれ、そこに勤める人も出てきます。外資企業も設立され、それら新しい企業の活動が活発になりました。自由に職場を選んで移動を始める人々が増えていったのです。

5.やむを得ない制限

 ところが農民には、居住・移転の自由がないのです。決められた農村を離れることができません。それを許すと盲流(もうりゅう)といって、あてもなく急に豊かになった沿海諸都市に仕事や豊かな生活を目指して流入し、やがて浮浪者と化して都市の社会秩序を崩してしまうからです。

6.実態に合わせた対応

 移転の自由に関連して、就職についても制限があります。

 都市郊外には農村があり、通勤できる範囲に「農」の人たちが住んでいます。彼らも都市の企業で働きたいと考えるはずですが、基本的には許されません。ところが、都市の管理部門に企業が反則金を支払いさえすれば、彼らを雇用することが認められるのです(但し社会保険の加入はできません)。

7.人権の考え方

 基本的人権が近代に多くの犠牲を払って獲得されてきた経緯を見るとき、社会の発展情況に応じた権利の確立・保障がなされてきた歴史的事実を知ることができます。今の中国の経済力では、最低限の生活を保障すること(生存権保証)が精一杯です。

 米国が要求するような言論の自由等は、まだ先の話しと言わざるを得ません。

 相手を知ること、知ろうと努力するところから対等の関係が始まります。人権問題を指摘する米国政府首脳の方々には、中国で企業経営を体験していただくのが一番の早道かもしれません。

つづく