VOL.40 何が標準やねん

投稿日:1999年10月11日

何が標準やねん

 「你説的意思不明白!」 (何を言っているのか解りません!)

 北京で道を尋ねると時々こんな答えが返ってきて、あとは無視されます。原因は、北京弁で話さなかったことにあるようです。

 北京っ子は、自分たちの話す言葉がかなり訛っているにもかかわらず、それを標準語と信じています。北京は首都・国の中心、自分たちと同じ話し方をしない人間は田舎者、従って相手にしない、という三段論法のようです。

 同じようなことは日本でもあります。スーダラ節に乗って、調子良く飲んだまではよかったのですが・・・。

1.「チョイト一杯のつもりで」

 飲み過ぎたのか、乗り換え駅の西大寺を一駅乗り過ごしてしまいました。西大寺まで戻って橿原(かしはら)線の電車を待ちます。

 最終電車が入ってきました。白人女性が時刻表を眺めて、わからないのか私に尋ねてきました。
「ニシノキョー?」

 西の京は、橿原線の2つ目です。私の郡山は4つ目です。
「この電車です。私もこれに乗ります。」

2.「いつの間にやら」

 彼女は、英語を話す人間に出会ったのでほっとしたのでしょう、席につくと話しかけてきました。
「時刻表を見てもさっぱりわからないわ。」

 彼女は、プラットホームの時刻表を指さしました。奈良線の時刻表に橿原線が載っているはずがありません。

「どうして英語で書いていないの?」

 腹立たしげな口振りです。それもそうで、「奈良方面」「快速急行」「急行」「準急」等々、要するに世界の4割の漢字を解する人のみがこの時刻表を理解できます。

 「世界では、英語が通じるのが普通(スタンダード)なのに。」
どこかで聞いたセリフです。

「あなたは米国人ですか。」
「ええもちろんよ。」力がこもっています。

3.「これじゃ身体にイイわきゃないよ」

 一般的に米国人は外国語を学びません。外国でも英語で通します。通じない場所は、発展の遅れた場所として軽蔑します。この高慢な考えに迎合するつもりはありません。そういえば彼女は、最初から一言も日本語を話しません。

 「あなたは日本語が話せますか。」

 「いいえ。でも勉強を始めました。」

 日本語、というよりも外国語を学ぶのに要する多大な労力と根気について理解していないのでしょう。その前に英語の通じない日本に居続ける根気がどこまで続くか・・・。

4.「わかっちゃ」いない

「世界の人口の30%は中国人ですが、彼らは英語を話しません。ですから、必ずしも英語が世界の標準とは言えないでしょう。」

「タイ、あんなに遅れた貧しい国でも英語に不自由しなかったわ。日本人は学校で英語を学ばないの?」

 彼女の基準では、日本は発展途上国以下のようです。一言、返してやることにしました。

 「中学校から学びますが、大部分の人は話せません。しかし日本人のビジネスマンは、相手先の言葉を学んでから仕事に行きます。アフリカならフランス語、中南米ならスペイン語、私は中国で仕事をしますから中国語を話します。」

 西の京です。このおばちゃんは、私の皮肉には気付かずに降りていきました。

 郡山に着きました。向かいは派出所、「KOBAN」と書かれています。これでは、漢字を解する人にも理解できません。彼女も彼女ですが、日本の公共の場所の表示も大差ないようです。

 いつの間にか酔いがさめていました。

つづく