VOL.42 快速列車に乗る

投稿日:1999年12月06日

快速列車に乗る

 広州から深圳(しんせん)までバスに乗りました。便は15分置きにあり、ハイデッカーと呼ばれる高級バス、窓は大きく、座席は高く眺めは最高です。無料でミネラルウォーターが配られ、又ビデオで香港映画を流しており退屈もなく、高速道路を通って約2時間、快適な旅でした。

 このように南の街では、当たり前のことが当たり前に行われるという点で、面白味がないともいえます。やはり旅行者にとって人に話したくなるような体験ができるのは、北の街の特典かもしれません。

1.天津から北京へ

 快速列車は満席です。網棚がふさがっているので、私は手提鞄を抱えて狭い座席に小さくなっています。向かいに座った人は、靴を脱いで爪先で靴を立てたり倒したりする癖のある人でした。靴は15秒おきにパタリと私の靴の上に倒れます。3分経ち、我慢も限界に近づきました。

 「あなたの靴の下に、私の靴があるのですが・・・。」
「スイマセン。」北の人は大らかです。1時間20分で北京に到着しました。

2.首都北京駅

 構内は、ツルツルのタイル貼りです。革靴の私にとって、雪の上を歩く慎重さが必要です。

 出口に近いところは登りの傾斜です。そこは20cm幅のなめらかな登りと2センチの落ち込みの連続になっています。ようするに階段の逆です。その2cmの落ちこみに靴のかかとが引っかかります。掃除もやりにくいでしょうが、天津を出るときに磨き立てた私の靴は無惨です。

3.駅前広場

 旅館、食堂、タクシーの呼び込みでごった返しています。スリやひったくりも多いようなので、足早に人混みを抜け出します。広場の前は道路、信号も横断歩道も、まして歩道橋もありません。

 中国の人について少しずつ道路中央ににじり寄ります。クルマが一台も通れなくなるまで人の波が押し寄せると、クルマの列は途切れます。そこで堂々と道路を渡ります。

 今度はクルマの番です。少しずつ歩行者の群に鼻先を押し込んできます。

4.帰りの北京駅

 仕事を終えて戻ってきました。さて、チケット売場はどこでしょう。

 見つからないはずです。建物の外に机を出して職員が売っているのですが、その前に3人のダフ屋が立ちふさがっています。職員はダフ屋と仲が良さそうです。排除する気配はありません。

 私が職員から買おうとすると、「なんでオレから買わないんだ。同じじゃないか。」
 私はダフ屋の隙間からお金を突き出します。その職員は面倒そうに売ってくれました。

5.待合室

 後ろに座っている人の話し声が妙に拡大されて耳に届きます。不思議に思って天井を見上げました。なめらかにドーム状になっています。声が反射して私の所で焦点を結ぶのでしょう。先のタイルに逆段差、このドームとくれば、設計・施工の点で、首都駅の名が泣きます。

 「本はいらない?」隣のおばはんが声を掛けてきました。何と待合所に商売をしに来ているようです。ミネラルウォーター売りも居ます。極めつけは、幼児を連れた物乞いです。「なんでこんなとこまで入ってくるんや・・・」心の中でつぶやきます。

6.乗車

 私のは二人掛けの窓側、既に男性が二人分の席の真ん中に座っています。

「そこは私の席です。あなたはチケットを持っていますか?」

「好きなところに座ればいいんだろ。」彼は動こうとしません。私はその端に座って言いました。

「半分ずつに座りましょうよ。」彼はプイと席を立つと他の車両へ移って行きました。助かりました。
やがて、疲れ切った私を乗せて列車は動きだしました。

つづく