VOL.46 日本の中華料理

投稿日:2000年4月03日

日本の中華料理

1.天津麺

 「こんど天津に行ったら、本場の天津麺をたべるんや!」

 天津に天津麺などありません。友人が、知っているくせにわざとボケをかましているのです。

 日本の中華料理店ならどこにでもあるメニュー、天津麺。汁そばの上に蟹の入った円い玉子焼きが乗って、片栗粉の入ったスープのあんがかけられています。皆さんも食べた経験があるはずです。でもそれは、天津にはありません。天津どころか、中国中にそのような食べ物は存在しません。

2.天津飯(てんしんはん)

 「天津に天津麺がないなんてホンマかいな。まさか、天津飯までないとは言わせへんでー。」

 やっぱり、それもありません。南京が南京豆、南京虫、南京(かぼちゃ)のように中国を意味するように、天津も華北の中心港として中国或いは中国風を意味する言葉に使われた一環かと思われます。

3.餃子

 餃子はどうでしょう。実は、皆さんの考える焼いた餃子もありません。中国で餃子と言えば、水餃子(すいぎょうざ)、ゆでた餃子を黒酢につけて食べます。

 焼き餃子に似たものは、天津にあります。鍋貼(クオティエ)と言います。中身は肉が主体でジューシーではありません。それに皮の両側が綴じておらず、両端から中の肉餡が見えます。こんがり焼けて、カリッとした歯触りです。これ又酢をつけて食べます。餡の種類は、羊、牛肉、海老などがあります。屋台などでも売っており、人気店ではお昼時に行列ができます。

4.八珍豆腐

 逆に日本にはありませんが、日本風と思われる本場料理があります。揚げ出し豆腐のだし汁の代わりに、八つの珍味を炒め煮したものに片栗粉でとろみをつけて上から掛けてあるのです。海老、イカ、干ナマコ、茸、タケノコ、豚肉などで、超美味です。片栗粉の衣を付けてさっと油をくぐらせた揚げ豆腐も日本流なら、更に不思議なのは皿に敷いてある生のレタスです。

 当時、生ものを一切食べなかった中国に、1996年には既に定番メニューとして存在したのです。私の想像ですが、日本料理の影響が考えられます。戦前の文化交流の遺産が、改革開放経済の進展で復活したのでしょうか。

5.しゃぶしゃぶ

 欧米で「シャブシャーブ」と言えば、「スキヤーキ」、「テンプーラ」と並ぶ日本料理の代表です。これの起源は中国北方の冬の名物料理、涮羊肉です。「涮」は、しゃぶしゃぶするという意味、即ち羊肉のしゃぶしゃぶです。日本では戦後、羊を牛肉に変えて広まったようです。

 羊肉は臭みが強いので、刻みにんにくと香菜(コリアンダー)を醤油ベースのタレに沢山入れます。私は開放経済が始まって日が浅い80年代半ばに食べたのが初体験です。翌日も羊の臭いが体中に残り、鼻孔に染み付いた臭いは数日抜けませんでした。

 それから十年余り、今では湯に干し海老などを入れてダシを出します。羊肉の臭みも減り、浸けるタレは日本のしゃぶしゃぶ同様ゴマダレが主流になりました。更に、穀物飼育の臭みのない牛肉も併用され、従来の凍り豆腐に加え普通の豆腐が出てくるなど、日本のしゃぶしゃぶに急速接近中です。

6.日本で本場を味わう

 冬の中国北方は、氷点下の世界です。寒さの苦手な方、時間や金銭的ゆとりの無い方のために、今回は特別に良い方法を御教授しましょう。

 まず、普通のしゃぶしゃぶの用意に加え、羊肉の薄切りと香菜を用意します。刻んだ香菜は、お好みに合わせてタレに入れて下さい。餃子を用意すると更に完成度は高まります。これも鍋に入れてタレにつけて食べるのです。

 仕上げは酒、中国焼酎(白酒)を小さな杯でグッとあおります。
「キ、キクーッ!」アルコール度数もさることながら、香りも強烈です。

 お酒に自信のある方は、お互いに顔を合わせて同時に乾杯!中国の乾杯は文字どおり一気に飲み干します。これを続けると更に本場の雰囲気が盛り上がります。

 「もう一回や!」どんどん本場に近づきます。いつの間にか強烈な香りも気になりません。
但し、翌日の御予定次第では、本場の雰囲気もほどほどに切り上げるのが無難であることを申し添えておきます。

つづく