VOL.130 誰がブタやねん!

投稿日:2007年4月13日

誰がブタやねん!

 今年2007年3月4日は旧暦最初の満月。15日間続いた新年の行事、春節を終えました。日本の公共放送では、「今年、中国ではブタ年です」とやっていました。

 十二支は中国から伝わったもので、日本では一貫して「亥年」を「イノシシ年」と言っているものを、突然本家が「ブタ年」になったのでは驚きます。

 今年、私は年男です。私は48年の人生を「イノシシ」として生きてきました。それを「ブタ」と言われては納得がいきません。どうせ言うなら「中国では猪(イノシシ)の字はブタを意味しますので、ブタ年です」くらいの表現にして欲しいものです。

1.「豕」と「亥」

 人類はイノシシを家畜化してブタを生み出しました。特に中国は、家畜化の長い歴史を誇ります。ブタを表す最初の文字は「豕」(シ。中国語発音記号:shi)です。

 象形文字ですから、良く見るとブタの形が解りますね。秦の始皇帝の時代(紀元前3世紀)に編纂された「呂氏春秋」に載っている故事を見てみましょう。

 ある人が「己亥」(キガイ)を「三豕」(サンシ)と読み間違えたのを孔子の弟子が注意します。確かに毛筆で書かれた文字は似ています。

 中国の暦では十干(じっかん)と十二支を組み合わせて60日、即ち二ヶ月で一巡しますが、「己亥」はその36番目の日のことです。「晋の軍隊が己亥の日に黄河を渡った」と「晋の軍隊と三匹のブタが黄河を渡った」では大いに意味が異なります。

 「亥」(中国語発音記号:hai)は、動物の骨を表す象形文字です。十二支に使われるようになって、ブタもしくはイノシシを意味するようになりました。

2.「猪」

 「猪」は、元は「豕」に発音を表す「者」を付けた文字でした。この字が作られた頃にはブタを「チョ」と呼んでいたのでしょう。現代中国語の発音記号では「zhu」です。

 日本でも昔は「猪」をブタの意味で用いました。古事記や日本書紀には「猪飼」(いかい)が出てきます。「猪」を飼うのですから、ブタに他なりません。

3.「豚」

 「豚肩不掩豆(とんけん豆をおおわず)」。春秋時代の斉の国の宰相晏子(あんし)は質素な生活を実践し、先祖への供え物の豚の肩肉が小さくて豆の器に満たなかったという故事が、紀元前に編纂された「礼記」に出ています。

 「豚」はブタ、中国語発音記号では「tun」。「豕」に「月」(にくづき)が付いていますので、この場合はブタそのものよりも「豚の肉」を示していることが解ります。

4.ブタとイノシシ

 中国ではイノシシというものの存在はほとんど意識しておらず、特別の漢字は用いません。ただ、家畜化されていないことを明確にする為に「野生」の「野」を付けて「野猪」としますが、野生化したブタも「野猪」のようです。

 日本では仏教の影響で積極的に養豚して肉を食べるという習慣がありませんでした。

 それで「猪」はもっぱら野生のものを指すようになりました。明治維新以降、食肉としての養豚が盛んになりブタは「豚」、イノシシとは文字の上でも明確な区別が行われるようになりました。

5.ブタのイメージ

春節を祝うポスター

 ブタは子だくさんです。中国でブタは子孫繁栄、そして商売繁盛の象徴でもあります。

 「家」という字は、ウ冠の下に「豕」です。これを以て、中国では家の中でブタを飼う習慣があったという説が唱えられてきました。実際は、元の字は「豕」ではなく、家の基礎に生け贄として埋められた犬であるようですが、それほどブタは身近な存在です。

 そう言えば、明の時代に完成した西遊記の猪八戒は、ブタとして描かれました。強さのイメージもありそうです。しかし、現代中国では春節の絵柄も置物も、体型がふっくらした牙なしの可愛いブタです。

 十二支の交代は旧暦で行います。来年、2008年の2月まで亥年が続きます。

つづく

写真上:特注で牙を付けてもらった玉製ブタ
写真下:春節を祝うポスター