今宵の晩餐 vol.10 棒鱈

投稿日:2023年1月05日

 皆さん、こんばんは。六代目当主の中谷正人です。

 連載の十回目。家飲みの楽しみを分かち合いましょう。
 新年明けましておめでとうございます。中谷家では紅白かまぼことハム類以外、おせち料理は手作りです。一の重は口取り。紅白かまぼこ、数の子、ごまめ、黒豆、栗きんとんを詰めます。二の重は三種類の酢の物(紅白なます、日の出エビ、酢蓮根)に鰤とチキンの焼き物。三の重は焼きエビとハム類。四の重は煮物です。その中で最も手の掛かるのが棒鱈(ぼうだら)。今宵の主役です。

主役の酒

清酒 三日踊(みっかおどり)純米大吟醸

 正月だけに贅沢な酒を選びました。精米歩合35%。優しくフルーティーな香りと味はアテの幅を広げてくれます。これにぬるい燗を付けていただきます。

アテ

棒鱈

 「ぼうだら」と言えば高級料理店で出てくるものという印象をお持ちの方もあろうかと思いますが、奈良、大阪、京都ではおせち料理の定番です。江戸時代、北の海で獲れた魚や昆布を乾物にして北前船で大量に上方(かみがた)に運びました。中でも頭と内臓、背骨を取って自然乾燥させた鱈の乾物は高価で、かつ美味しかったので新年を祝う食材になりました。

 料理に手が掛かるとは言っても煮るのに時間が掛かるのみ。労力は知れています。 乾物の鱈(たら)はまず水で戻します。通常の家庭では半身を使いますが、長さが60センチ程ありますので、鋸(のこぎり)で4つくらいに切ります。その時、顎(あご)の骨に二か所ほど切り込みを入れておくのがポイント。大きめの鍋に入れて水を張ります。5日くらい漬けますので三日目に水を換えます。

 12月30日か31日。鱈の身を3センチか4センチ角ぐらいに切り分けます。顎の骨は鋸で切ってありますので5分ほどの作業です。 次は下茹で。ティーバッグを一袋入れて水から茹でます。アクが結構出ますので、こまめにすくい取ります。沸騰してから30分で湯を切ります。

 いよいよ煮る作業。出汁と酒で煮ます。煮立ったら調味料の半分を入れて30分煮、残りの調味料を入れて落し蓋。その後、煮汁がほとんどなくなるまで約4時間とろ火です。調味料の量は、棒鱈半身が約1.2キロとして醤油250㏄、砂糖200グラム程度が目安です。

晩餐

 今宵も家内と一緒に晩酌(ばんしゃく)です。

 身に含まれるゼラチン質が溶け、醤油と混じった褐色の光沢がたまらなく食欲をそそります。口に含めば甘じょっぱさが拡がります。引き締まった身を噛めばホロホロとほぐれ、出汁と合わさった鱈独特の淡白な旨みに満たされます。そして酒。フルーティーで円やかで軽やかな酒が、ほのかな暖かさと共に口中に行き渡り、鱈の旨みと交じり合います。正月だけの味わい。正月こその楽しみ。幸福感に包まれます。

 正月伝統の食べ物はたくさんの美味しい物から選ばれ、また酒に合うように調理方法も進化してきたはずです。棒鱈は歴戦の強者(つわもの)です。今年も満足です。

ではまた次回。