第48話 中国基準 【アラカン社長の徒然草vol.57】

北京のスモッグ(北京空港) 私は中国関連の有料ニュースを購入しています。週に一度載るコラムの筆者は著名な中国人ジャーナリスト。仮にBさんとしましょう。Bさんは日本語に堪能で、日本語の著書も多数あり、日中間の交流でも多大な貢献をしておられます。私はBさんの著書を読んだことがありますし、Bさんのコラムを欠かさず読んでいます。中国人の考え方や習慣を知る上で参考になることが多いからです。
 そのBさんが、「日本的サービス崩壊の予兆」があるというのです。Bさんの親族旅行中の出来事でBさんが挙げた例を読んで、私は暗い気持ちになりました。

1.大阪の駐車場

 Bさんは五つ星ホテルにクルマで乗りつけ、一泊。翌日、ホテルと契約している駐車場で駐車料金2,000円を要求されました。駐車場に掲示されていた一泊料金は2,400円。ホテルでは2,000円分の駐車券を渡されています。Bさんは要求された2,000円とホテルの駐車券金額が一致していたので駐車料金を支払う必要がないと思い込みました。そこで駐車料金を払う理由を係員に尋ねたところ、納得できる説明がなかったということで「日本的サービス」が行き届いていないと主張しています。
 私の経験上、中国では根拠のない金額を要求されることは多々ありますが、日本ではほとんどありません。おまけに五つ星ホテルの契約駐車場であれば皆無と考えて良いでしょう。しかも駐車場には精算システムが導入されており、入場時に打ち出されたカードを入れると駐車料金が表示され、ホテルの駐車券を入れるとその金額が減って、精算すべき金額が表示されます。普通の人はそれを支払って終わりです。理由を説明する必要がどこにあるのでしょう。一泊料金2,400円に「一泊」の規定時間外の1,600円が加わって合計4,000円。ホテルの駐車券2,000円が引かれて、「2,000円」の表示が出たものと思われます。
 結局、係員はあきれ果てたのでしょう。Bさんの肩を押し「料金は要らん。さっさと出て行け」と言い、Bさんは払わずに去りました。これではゴネ得です。このままでは中国人の評判を落とします。Bさんには、今からでも駐車料金を払って名誉を回復させて欲しいものです。

2.京都のラーメン屋

天津の夕暮れ(海河) 行列のできるラーメン屋で順番を待っていたと言います。Bさんは親族と中国語で会話をしていたようで、店側では中国人客であることを認識していました。席が空いたので店員にそこに座らせろと強引に突っ込んだところ、店主が出てきてその席には案内できないので暫く待つように言われたそうです。それが中国人を差別する行為のように感じ、不愉快になって店を出たというものです。
 大体、繁盛しているラーメン屋の店主は「大将」と呼ばれるくらいですから偏屈な人が多いものです。「あの席はあかん」と言われたらそれに従うのが日本のルール。それでも食べたい人が行列に並んでいるのです。
 ひょっとして、中国人の普通の会話でも日本では大声にあたりますので、隅の席にしようと店員は考えたのかもしれません。中国の日本料理店では中国人の団体と日本人の席を離す工夫をする店が多いのが現実です。店には多様な客が来ますので、店の都合というのもあるのです。
 Bさんは殴られるかと恐怖を感じるほど店主とやり合ったそうです。中国では客が店員に対して驚くほど威張り散らす情況を散見します。中国では拝金主義が横行し、金を持っている者が偉いのです。Bさんがそういう態度であったかどうかは解りません。ただ、日本でBさんの行為はやり過ぎです。

3.京都の土産物店

 試食販売をしている店で、「中国人には古いものを試食に出す」と店員が言ったのを聞きつけ、不愉快になったというものです。
 中国では試食販売は勧められません。百貨店では禁じていることもあります。試食だけを目当てに大量の人が押しかけ、混乱が起きるからです。Bさんのように高い学歴と日本経験豊富な人は少数派です。日本に来た中国人観光客が試食販売をしている店で中国と同様の行動パターンを示すであろうことは想像に難くありません。もし日付の新しい物と古い物があり、中国人観光客が来る時間帯が解っていたとすれば、それに合わせて古い日付のものから先に出すのは理の当然です。Bさんにとって、それが耳に入ったこと自体が不幸でした。

4.池袋の都銀支店

上海の新緑(虹橋) Bさんが私が読んでいるのとは別のコラムで上記親族旅行中の不愉快な経験を書いたところ、中国人読者から日本で経験した不愉快な事例が寄せられたそうです。それをBさんは援用しています。
 その中国人読者が都銀支店で銀行口座を開こうとしたところ、「日本語が話せないと開設できません」と言われたというもの。中国人を差別しているというのです。Bさんは「日本的サービス」から見て、都銀のような大きな銀行では中国人の為に中国語をできる人材を各支店に配置するべきだと考えているようです。これは何かの間違いで、Bさんの本心ではないことを期待しています。私が知る限り、中国で中国語を話すことなく銀行口座を開くことはできません。他の国でも現地語ができなければ口座開設が困難なはずです。
 Bさんが如何に日本通と呼ばれようと、日本経験があろうと、知らないことは少なからずあります。知らないことは中国の基準で考えているはずです。気がつかない内に日本人を驚かせる程の大声で話しているかもしれません。中国の基準で考えた「素晴らしい日本」の固定観念が抜けきれず、日本のサービスに過剰な期待をすることもあるでしょう。しかし「日本」は現実の日本でしかありません。「日本的サービス」は健在です。

第48話終わり

写真1:北京のスモッグ(北京空港)
写真2:天津の夕暮れ(海河)
写真3:上海の新緑(虹橋)

2014年6月
  中谷酒造(株)代表取締役  中谷正人