酒造りの始まり【酒蔵便りvol.60】

湯気を吹き出す甑(こしき)上の屋根 10月19日、今シーズン最初の米を洗いました。11月末に生で出荷される本醸造酒「なまなま」の麹米です。翌朝、蒸し上がった米を8回に分けて冷まします。一回毎に温度を確かめながら約30度に冷めたところで「もやし」と呼ばれる種麹(たねこうじ)を振りかけ、米を混ぜます。

 麹室(こうじむろ)は室温が30度に保たれています。床(とこ)と呼ばれる箱の中で麹米は布に包まれ密封されます。

 その日の夕方、床の蓋を開け、包んでいる布を拡げて麹米をほぐす作業をします。上半身裸で両手に体重を掛けて固まった米をほぐして行きます。小一時間の作業なのですが、室温が高いこともあり、汗まみれの重労働です。

麹 翌21日朝、床の蓋を開けますと、すでに米の表面に白い菌糸が見え、少し甘い香りがします。切り返し機でひっついている米の塊を一粒ずつになるようにバラバラにして、製麹機に盛り込みます。本来、麹は最初厚く盛り、菌糸が伸びて熱を発するに従って薄く盛り、温度の上がり具合を調節すると共に、表面を乾燥させていくものです。しかし中谷酒造が使うハクヨー多段式吟醸用製麹機は、最初から10枚の棚それぞれに等しい厚さになるように薄く分けて入れるのです。初期の段階で表面が乾燥しすぎないように完全に密封することが可能で、その後時間経過に従って温度調整、湿度調整など理想の環境を整える優れものです。設定は、蓄積したデータに従って精密に行います。夕方まで菌糸の成長に合わせて微調整しながら、最終設定を行って退社します。

 22日朝、製麹機の送風口から出る栗のような甘い香りに麹がうまくできたことを知ります。製麹機は設定に従い、我々蔵人(くらびと)に代わって一晩付きっきりで麹番をしてくれたのです。

 できた麹を使って酵母菌を培養し、酒母(しゅぼ。酵母菌の培養液)を作ります。24日、最初の添(そえ)仕込みを行いました。酒母、麹、蒸米と水を仕込みタンクに投入し、攪拌します。25日は日曜日。一日休んで酵母菌の増殖を待ちます。
麹の枯らし(外気で冷まし乾燥させる) 26日は仲(なか)仕込み。添仕込みの約二倍の麹、蒸米、水を投入。27日は留(とめ)仕込み。仲の更に二倍の原料を投入。これにて一本目のタンクの仕込みが終了です。酵母菌の増殖には時間が掛かりますので、このように酵母菌の増殖に合わせて原料を分けて入れることで酵母菌の優勢を保ち、雑菌の繁殖を防ぐことができるのです。

  26日には次のタンクの麹作りが始まっています。そして31日土曜には次のタンクの添仕込み。来春まで、これを繰り返しながら酒造りが続きます。

写真上:湯気を吹き出す甑(こしき)上の屋根
写真中:麹
写真下:麹の枯らし(外気で冷まし乾燥させる)

2009年11月
中谷酒造(株)代表取締役  中谷正人