VOL.44 信じる者は命がけ

投稿日:2000年2月07日

信じる者は命がけ

 中国の人々は、人をもてなしたり、喜ばせるのが上手です。それに慣れない日本人は、飾りたてた言葉を通訳の日本語を通して聞くせいか、日本と同じ意味に理解してしまいがちです。本当は、言葉の使い方が異なることから生じた誤解に過ぎないのです。

 感激を呼ぶ場合もありますが、「騙された」と感じて気まずい結末を迎えることも多いようです。実は、中国の人々の間でもこんなことがあります。

1.親切な人も

 数人で遠出することになり、大きな車が必要となりました。レンタカーが普及していない中国では探すのが大変です。会社の者がうまい具合に、親しい会社から車を借りてきてくれました。

 整備もきっちりやっておいてくれたそうです。しかも無料、心の中で手を合わせました。

2.最初から

 いざ出発というときになって、タイヤが一輪パンクしているのがみつかりました。

 30分後、修理から戻ってきた車に乗り込んでみると、強いガソリン臭がします。どこか漏れているのでしょう、ちょっと不安です。

「前に借りた時もこんな臭いがしましたよ。」誰かが言いました。

「車内でタバコは吸わないほうがいいでしょう。」思わず私が言いました。

「ちゃんと整備してくれたんですよ。」

 借りてきてくれた人の言葉に、無言でうなづきました。

3.五分後

 ドライバーが、急にクルマを止めました。エンジン冷却水の温度を示す針は上限に張り付いています。ラジエターキャップを温度が高い時に開けると熱水が吹き出しますので、緩めて徐々に蒸気を抜きます。だいたい抜けたようです。

 「大丈夫、開けてもいいです。」昔クルマいじりをしていたので、詳しいつもりの私が言いました。

 「シュワッ!」クーラントを使用していた形跡のない赤錆びた湯が飛び散りました。水は充分入っていたのです。

4.原因は

 私の頭は素早く回転し、情況を理解できました。

 原因は潤滑油、それがほとんど無かったために、エンジンが焼き付く寸前だったのです。燃料ポンプもエンジンの熱で高温になり、大量のガソリンが揮発していたのです。水温の異常に気付くのが遅ければ全員焼死していたかもしれません。

5.更に

 温度が下がったので、オイルを売る店を探しながら走り始めました。郊外ですのでなかなかみつかりません。ドライバーは速度を上げます。パンクで遅れ、更にオーバーヒートで停車した為、あせっています。

 またまたガソリンの強い臭いが立ちこめてきました。

 「速度を落とせ!」窓を開けながら私が叫びます。

 その時、反対車線にガソリンスタンドが見つかりました。

6.結局

 オイルを入れてみると、やはりほとんど空でした。先の「整備」の意味するものは、パンクしたタイヤに空気を入れておいた、ぐらいのことだったようです。

7.身近な例で

 街の食堂に行くと、濡れて、時には油でズルズルの取り皿が出てきます。気持ち悪いので、普通は紙ナプキンでゴシゴシ磨きます。ところが、こちらが接待を受けている場合は、招待主の面前で皿を拭くのは気が引けます。

 「遠路はるばる来てくれた」「特に歓迎すべきお客さん」である我々に対して、衛生状態に問題のある店を選ぶはずがありません。

 と、接待主自身がせっせと皿を拭きはじめます。些細なことでも「歓迎」の程度を知る手がかりです。

 言葉の使い方が異なる状況下では、言葉の意味を慎重に検討しなければなりません。時には命に関わることもあるのですから。

つづく