VOL.72 魔が差すと

投稿日:2002年6月10日

魔が差すと

 人間、時間ができると要らぬことを考えてしまうものです。余計なことをしてしまい、良くない結果に終わりがちです。

1.帰りの北京空港

 早く着きすぎました。時間つぶしが必要です。そういえば例の「サイテー」食堂はどうなったでしょう。近頃、その価格の「サイコー」ぶりがマスコミに取り上げられていました。マスコミの影響は捨てたものではないはずです。改善度をチェックしてみましょう。

 なぜそんなことを考えたのか、今にして思うと魔が差したとしか言いようがありません。

 セルフサービスで、カウンターを順に通って最後に勘定を払います。サンドイッチなどの軽食からスタートして、最後は韓国料理です。「韓餐 KOREAN FOOD」と書かれたプレートの下になぜか日本食。

 サンプルと値札が並んでいます。味噌ラーメンは65元、肉うどんは70元、幕の内弁当らしきものは80元です。価格は前のままですが、味だけでも改善していればタバコが吸えるので、遠い喫煙室に行く労力が助かります。

 ただし、心理的・金銭的ダメージを最低限に抑える為、最も安い味噌ラーメンにしました。

 「えっ、71元!、なぜ?、どうして?、WHY?」

 「サービス料10%です」

 サービス料のことをすっかり忘れていました。一杯のラーメンが千二百円です。でもタバコを吸える誘惑には勝てず、お金を払ってしまいました。

 DVDの大画面に目を遣ると、3人の黒人女性が不気味な化粧と格好をして体をくねくね動かしながら歌っています。どう考えても食事をする場所には馴染みません。

 10分後、グラタン皿に入ったものが運ばれて来ました。それが私が注文したものと同一のものであることを理解するのに何秒かかかりました。皿の深さは3センチ、従って味噌ラーメンを特徴づけるスープはほとんど入っていません

 麺の上には煮くずれた一本分相当のカニ蒲鉾と、ワカメゆで卵が載っていました。

2.天津の街で

 約束の時間まで間があるので、2キロ先のビルまで歩くことにしました。

 長距離を歩くのは久しぶりです。安全と衛生の問題から、タクシーに乗ることに決めていたからです。「最近は道路も綺麗になったし・・・」そう考えたのが運の尽き。

 だいたい天津人自体、歩くことはまれです。歩くとすれば、自転車が侵入できない場所か、よほどの近場に限られます。地元の人がめったにしないことを外国人がやろうというのですから、魔が差したとしか言いようがありません。

 ゴミこそ減りましたが、通り過ぎる自転車からは、痰と唾と鼻が次々にまき散らされます。横断歩道がありません。あったとしても車優先ですから何の効果もありません。

 歩道にデコボコに敷かれた煉瓦に蹴つまづき、歩道を降りると両側を自転車がすり抜けます。オッと、車が急に飛び出してきました。目的のビルが近づくにつれ、タクシーに乗る意義は薄れ、結局歩き通すはめになりました。

 私はこの事件の前、隠居して天津にお住まいの日本人に健康のための散歩を勧めていました。なぜそんなことを言ってしまったのか、「魔が差した」では済まされません。救いは、その方は頑固で人の言うことをあまり聞かないことですが・・・。

つづく