第55話 未年

投稿日:2015年4月03日

 今年は未(ひつじ)年。干支(えと)は旧暦で数えますので、旧暦の元日が未年の始まり。今年は2月19日が初日です。

 日本では還暦を祝う習慣があります。還暦とは干支の五巡。即ち十二支の一巡12年掛ける5で六十歳です。旧暦では生まれた年を一歳と数えますので、生まれた年の干支が五巡して迎えた元日が還暦です。

 多くの人にとって自分の干支を太陽歴で判断されていますが、本当は旧暦を基準に考える必要があります。太陽歴1月1日から21日までに生まれた人は間違いなく前年の干支になります。1月22日から2月18日までに生まれた人は干支の確認が必要です。

 今回は、未年にあたって思うところを記します。

1.未

賣太神社開運一刀彫りの羊

 干支は、十二の動物を年に割り振ったものです。子(ね。鼠)、丑(うし。牛)、寅(とら。虎)、卯(う。兎)、辰(たつ。龍)、巳(み。蛇)、午(うま。馬)、未(ひつじ。羊)、申(さる。猴)、酉(とり。鳥)、戌(いぬ。狗)、亥(い。猪)。

 この内、龍だけは想像上の動物で実在しません。古来、虎と羊は日本に存在しなかった為、日本人に馴染みがありません。名前は知っているものの謎の動物でした。そういった意味では、龍と同格です。

 ただ、龍は中国皇帝の象徴であり日本でも画材に多く取り上げられ身近な存在でした。虎も豊臣秀吉の朝鮮出兵で虎狩りが行われ、それを元に「加藤清正の虎退治」(実際には加藤清正は虎退治をしていない)の逸話が作られたり、これまた絵に描かれて身近に感じていたはずです。

 羊は画材に取り上げられることはまれで、日本人にとって最後に残った謎の動物でした。

2.羊

五羊石像(広州市越秀公園)

 羊は紀元前数千年から家畜として飼われていました。羊は寒冷で乾燥した地域に住むので長毛。毛は織って人類の被服になりますし、肉は食用になります。漢字と干支が生まれた中国北方で、羊はありふれた家畜でした。

 「羊」は、2本の角と頭、4本脚と尾を表した象形文字です。

 日本では江戸時代まで毛織物は高価な輸入品でしたが、明治時代を迎えると羊毛、即ちウールを輸入して毛織物や編み物(ニット)が盛んに作られるようになります。

 総合商社の起源と言えば鈴木商店と三井物産、それに関西五綿(江商、東洋棉花、日綿実業、丸紅、伊藤忠)が思い浮かびますが、加えて兼松があります。

 兼松は戦前に羊毛商社として一派を立て、二十世紀末に再編が起こるまで総合商社9社体制の一翼を担いました。

 一方の羊肉ですが、こちらは今日に至るまで日本国内での消費はマイナーシェアにとどまっています。

3.しゃぶしゃぶ

商店の飾り(上海市浦東新区国金中心)

 しゃぶしゃぶという料理。日本独自のものかと思いきや、実は中国北方の羊肉のしゃぶしゃぶ(中国語は、「しゃぶしゃぶする」にあたる動詞「三水に刷」の後に「羊肉」)を戦後日本に取り入れたものです。

 ただ、馴染みのない羊肉を牛肉に、高野豆腐(凍り豆腐)を普通の豆腐に替えました。

 中国北方の冬は寒く、半分凍った羊肉を包丁で切るには薄く削るしかなく、豆腐は凍ってしまいます。野菜と言えば軒下に蓄えた白菜と白ネギ。

 日本では、すき焼きがありますので、薄切り肉のイメージは牛肉に直結し、豆腐は凍らせるまでもなく鮮度の高いものを使うことができます。しゃぶしゃぶが容易に日本風に変化したことは、想像に難くありません。

 逆にしゃぶしゃぶがすき焼きに影響を与えたのかもしれません。関西の家庭で食べるすき焼きは、水菜や青ネギなど季節の野菜だけでも作りますが、料理屋のすき焼きは白菜と白ネギが定番です。

4.美

客使図(唐代)

 中国北方は乾燥し、冬は氷点下が続く厳冬です。そんな気候の中で雑草を食べて太ってくれる羊は、便利な家畜です。春から秋まで牧草を求めて移動し、飼っている羊が肥えて大きくなるのは嬉しいことです。

 「美」という漢字は、「羊」の下に「大」と書きます。肥えて大きくなった羊は、素晴らしく、立派であり、美しくもあるのです。

 中国唐代(618-907年)の絵を見ますと、女性も男性もふっくらした顔や体型の人が描かれています。当時はそういった顔立ちや体型が「美」、即ち立派で美しいとされていたのでしょう。

 一方、現代の「美」型は細身です。肥えて大きくなった羊からできた漢字の「美」の対極です。

 生活に余裕ができれば食事の質が上がり、太り気味になります。唐代においてはそんな体型が豊かさの象徴だったものが、飽食の時代になって太め体型が当たり前になると、逆に細身体型が珍重されるという流れかと思われます。

 漢字ができて三千年余。豊かになった社会に感謝せねばなりません。

第55話終わり

写真1:賣太神社開運一刀彫りの羊
写真2:五羊石像(広州市越秀公園)
写真3:商店の飾り(上海市浦東新区国金中心)
写真4:客使図(唐代)