甑(こしき)の断熱改良 vol.25

投稿日:2006年12月15日

<酒蔵の様子>

 弊社の酒蔵は、創業時の江戸末期に建てられた木造蔵、大正の関東大震災後に建てられた木造蔵、昭和の鉄骨蔵の三つで構成されています。

 その江戸の蔵は150年余りの風雪に耐えていますが、今年の秋から西側の圧搾機の上あたりで雨漏りがひどくなり、瓦の葺き替えに迫られました。

 通常、瓦は60年も経ちますと雨水が浸透するようになり、表面に苔が生え始めます。江戸の蔵は建築から約70年の大正時代に瓦を新調しましたが、それから既に85年も経ち、交換の時期が来たようです。

 11月末から酒搾りの合間を縫って約2週間、下地の交換、防水シート、瓦葺きを行いました。

早朝の江戸蔵と米を蒸す湯気

葺き替え作業

 米を蒸す道具を甑(こしき)と言います。伝統的な製法では、麹にする米のみならず原料としてそのまま発酵タンクに投入する米も、全て蒸して使います。蒸すという作業は、酒造りの原点です。

 昔は、釜の上に甑を載せ、甑の中に水を含ませた米を入れ、釜から立ち上る蒸気で米を蒸し上げました。現在は、釜に替えてボイラーで蒸気を作り出し、その蒸気を使って再度水を沸騰させて立ち上る二次蒸気を甑に送り込んでいます。

 敢えて二次蒸気を使う理由は、混じり気のない清浄な蒸気を得る為です。

新しい断熱材に交換した甑(こしき)

 甑の外側は、外気に触れて冷まされますので、甑の内側では蒸気が水になり側面を伝い落ちます。そこで甑内部の側面と底面に触れる米は水気を多く含んでべたつきます。これを少しでも減らして均質な蒸し上がりの米を得たいものです。その為、甑の外側を断熱材で覆うようにしています。

 今までは、グラスウールのシートで包み、外側を布で覆って紐で固定していました。これを、積水化学工業が製造する新しい断熱シートに交換しました。

 この断熱シート、グラスファイバーをフェルト状にしたものの外側を目の細かいスポンジ状の化学素材で覆い、表面をアルミ蒸着フィルムで仕上げてあります。

 その効果は、劇的です。蒸し上がりの外観ですが、底面はともかく側面のべたつきはほとんどなくなりました。作業上もべたついた米が少ないので米の固まりができにくく、米をほぐすのが楽になりました。

 又、麹菌は炊いた米など水気の多い場合には生育してくれませんので、麹作りに於いては、菌糸が生育していない透明な米が数パーセント混じるのが常です。これを破精落ち(はぜおち)と言うのですが、これも少なくなったように感じられます。嬉しい毎日です。

写真上:早朝の江戸蔵と米を蒸す湯気
写真中:葺き替え作業
写真下:新しい断熱材に交換した甑(こしき)

<今月のテーマ>

 寺社めぐりのシリーズをお届けして参りましたが、酒造りの季節に入り取材の時間がなく、暫くお休みとさせていただきます。悪しからずご了承下さい。